1267ねんイングランドEngland修道院しゅうどういん一室いっしつで、灰色はいいろ修道服しゅうどうふくをまとったおとこ羊皮紙ようひしペンをはしらせている。宛先あてさきローマRoma教皇きょうこうクレメンスClemens四世よんせいいている内容ないよう異様いようだ。かいもなく水上すいじょう疾走しっそうするふねうまかれずにはしくるまそら機械きかい海底かいていある装置そうち十三じゅうさん世紀せいき修道士しゅうどうしが、なぜこんなことをいているのか。おとこ空想家くうそうかではない。これは『技術ぎじゅつ自然しぜん秘密ひみつわざについての書簡しょかん』(Epistola de Secretis Operibus Artis et Naturaeエピストラ・デー・セクレーティース帰属きぞくには議論ぎろんがある)の一節いっせつとしてひろられる技術ぎじゅつ列挙れっきょだ。数学すうがく自然学しぜんがくただしく応用おうようされれば実現じつげん可能かのうだという確信かくしんが、そこにある。ロジャーRogerベーコンBacon後世こうせい驚嘆きょうたん博士はかせ」(Doctor Mirabilisドクトル・ミラービリス)とばれることになるこのおとこは、未来みらい夢想むそうしていたのではない。現在げんざい腐敗ふはい告発こくはつしていた。

ベーコンBaconおこっていた。パリParis大学だいがくオックスフォードOxford学者がくしゃも、ろくにギリシャGreeceアラビアArabiaめないまま、粗悪そあく翻訳ほんやくアリストテレスAristotelēsまわしている。権威けんいりかかり、慣習かんしゅうながされ、大衆たいしゅう無知むち迎合げいごうし、そして自分じぶんたちの無知むち華麗かれい術語じゅつごおおかくしている。このよっつのやまいくさらせている。ベーコンBaconはそう診断しんだんした。だが診断しんだんだけではわらない。処方箋しょほうせんがある。経験けいけん実験じっけんだ。どれほど精密せいみつ論証ろんしょうも、経験けいけんによってたしかめられなければ砂上さじょう楼閣ろうかくにすぎない。

この記事きじうのは、十三じゅうさん世紀せいき修道士しゅうどうしきつけたいだ。人間にんげんはなぜ、っているふりをするのか。そして「っているふり」をくずすために、なに必要ひつようなのか。

この記事きじ要点ようてん

  • よっつの障害しょうがいquattuor offendiculaクァットゥオル・オッフェンディクラ権威けんいへの盲従もうじゅう慣習かんしゅう惰性だせい大衆たいしゅう偏見へんけん、そして無知むちせかけの知恵ちえおおかくすこと。ベーコンBaconは『大著作だいちょさくだいでこのよっつを剔抉てっけつし、人間にんげん真理しんり到達とうたつできない構造的こうぞうてき原因げんいんあばいた。十三じゅうさん世紀せいき認知にんちバイアスろんだ。
  • 経験けいけんがくscientia experimentalisスキエンティア・エクスペリメンターリス:「経験けいけんなくしてなにものも十全じゅうぜんにはりえない」(『大著作だいちょさくだい)。論証ろんしょう結論けつろんみちびくが、確実性かくじつせいあたえない。経験けいけんだけがうたがいをのぞき、こころ真理しんり直観ちょっかんやすんじさせる。近代きんだい科学かがく方法ほうほうろん芽吹めぶく300ねんまえ宣言せんげんだ。
  • 統合知とうごうち構想こうそうベーコンBacon数学すうがく光学こうがく言語学げんごがく実験じっけん科学かがく神学しんがく奉仕ほうしする統一とういつ体系たいけいとして構想こうそうした。近代きんだい分業化ぶんぎょうかされた科学かがくとはべつゆめ断片だんぺんではなく全体ぜんたいであるべきだという執念しゅうねんが、この修道士しゅうどうしてた。

生涯しょうがい時代じだい背景はいけい

1220ねんごろイングランドEngland南西部なんせいぶサマセットSomersetしゅうイルチェスターIlchester近辺きんぺんまれた。裕福ゆうふく家柄いえがらだったとされるが、のちに内戦ないせん一家いっか財産ざいさん没収ぼっしゅうされ、兄弟きょうだい何人なんにんかは追放ついほうされている。十三じゅうさん世紀せいきイングランドEngland混沌こんとん時代じだいだ。ヘンリーHenry三世さんせい諸侯しょこう対立たいりつ教皇きょうこうけん世俗せぞく権力けんりょく緊張きんちょうモンゴルMongol帝国ていこく脅威きょうい。そして世界せかいでは、アラビアArabia経由けいゆしてラテンLatin翻訳ほんやくされたアリストテレスAristotelēs著作群ちょさくぐんが、ヨーロッパEuropa大学だいがく洪水こうずいのようにながんでいた。地殻変動ちかくへんどうきている。その震源地しんげんちに、ベーコンBaconっていた。

わかベーコンBaconオックスフォードOxfordまなび、1230年代ねんだい後半こうはんにはパリParisわたってアリストテレスAristotelēs自然学しぜんがく形而上学けいじじょうがくこうじた。パリ大学だいがく文学部ぶんがくぶおしえた最初さいしょイングランドEnglandじん教師きょうしのひとりだ。だがアリストテレスAristotelēsめばむほど、苛立いらだちがつのった。ラテンLatinやくひどい。ギリシャGreece原文げんぶんらずに注釈ちゅうしゃくらす同僚どうりょうたち。ベーコンBaconには、学問がくもん建物たてもの全体ぜんたいくさった土台どだいうえっているようにえた。

1247ねんごろオックスフォードOxfordもどる。ここで転機てんきおとずれた。ロバートRobertグロステストGrosseteste学統がくとうれたのだ。グロステストGrosseteste光学こうがく自然学しぜんがく重視じゅうししたリンカンLincoln司教しきょうで、数学すうがく自然しぜん認識にんしき基礎きそえた人物じんぶつベーコンBaconはこの伝統でんとう吸収きゅうしゅうし、さらにアラビアArabia科学かがく、とりわけアルハゼンAlhazenイブンIbnアル=ハイサムal-Haytham)の光学こうがく貪欲どんよく研究けんきゅうした。書物しょもつ実験じっけん器具きぐ秘密ひみつ知識ちしき莫大ばくだい私費しひとうじた。20年間ねんかんで2000リーブルlivres以上いじょうついやしたと本人ほんにんいている。当時とうじ大学だいがく教師きょうし年収ねんしゅう何十なんじゅうばいにもあたるがくだ。

1257ねんごろフランシスコFranciscusかいはいる。ここから苦難くなんはじまった。修道会しゅうどうかい上長じょうちょう許可きょかなき著作ちょさく公開こうかいきんじていた。ベーコンBacon知的ちてき野望やぼうくさりをかけられた。だが1266ねんおもいがけない命令めいれいローマRomaからとどく。教皇きょうこうクレメンスClemens四世よんせいがベーコンの著述ちょじゅつおくるようめいじたのだ。修道会しゅうどうかい禁令きんれいえる教皇きょうこう勅命ちょくめいベーコンBacon猛然もうぜんはじめた。やく18ヶ月かげつで『大著作だいちょさく』『小著作しょうちょさく』(Opus Minusオプス・ミヌス)『第三著作だいさんちょさく』(Opus Tertiumオプス・テルティウム)を一気いっきげ、教皇きょうこうおくった。

だがうんつづかない。1268ねんクレメンスClemens四世よんせいんだ。庇護者ひごしゃうしなったベーコンBacon著作ちょさくは、教皇庁きょうこうちょうのどこかにもれた。1277ねんパリParis司教しきょうエティエンヌÉtienneタンピエTempierによるだい禁令きんれいアリストテレスAristotelēs主義しゅぎ一部いちぶ命題めいだい断罪だんざいした時期じき前後ぜんごして、ベーコンBacon修道会しゅうどうかい総長そうちょうジェロームJeromeダスコリd'Ascoli(のちの教皇きょうこうニコラウスNicolaus四世よんせい)によって処罰しょばつされた形跡けいせきがある。投獄とうごく伝承でんしょう後世こうせい脚色きゃくしょくじるが、なんらかの活動かつどう制限せいげんけたことはたしかだ。1292ねんごろ、『神学しんがく研究けんきゅう綱要こうよう』(Compendium Studii Theologiaeコンペンディウム・ストゥディイー・テオロギアエ)を未完みかんのまま、オックスフォードOxfordぼつしたとされる。

ミニ年表ねんぴょう

  • 1220ねんごろイングランドEnglandサマセットSomersetしゅうまれる
  • 1230年代ねんだいオックスフォードOxfordまな
  • 1237〜1247ねんごろパリ大学だいがくアリストテレスAristotelēs自然学しぜんがく講義こうぎ
  • 1247ねんごろオックスフォードOxfordもどり、実験じっけん研究けんきゅう言語げんご研究けんきゅう没頭ぼっとう
  • 1257ねんごろフランシスコFranciscusかい入会にゅうかい著作ちょさく活動かつどう制限せいげんされる
  • 1266ねん教皇きょうこうクレメンスClemens四世よんせい著述ちょじゅつ送付そうふめいじる
  • 1267ねん:『大著作だいちょさく』『小著作しょうちょさく』『第三著作だいさんちょさく』を完成かんせい送付そうふ
  • 1268ねんクレメンスClemens四世よんせい死去しきょ庇護者ひごしゃ喪失そうしつ
  • 1271ねん:『哲学てつがく研究けんきゅう綱要こうよう』(Compendium Studii Philosophiaeコンペンディウム・ストゥディイー・フィロソフィアエ執筆しっぴつ
  • 1277〜1279ねんごろ修道会しゅうどうかいによる処罰しょばつ詳細しょうさい不明ふめい
  • 1292ねんごろオックスフォードOxfordにてぼつ

この哲学者てつがくしゃなにうたのか

傍目はためには、十三じゅうさん世紀せいきヨーロッパEuropa黄金時代おうごんじだいだった。アリストテレスAristotelēs全著作ぜんちょさくラテンLatinめるようになり、大学だいがく各地かくちまれ、スコラScholaがく論争ろんそう白熱はくねつしていた。だがベーコンBaconには、これが繁栄はんえいえなかった。せかけの増殖ぞうしょくしているだけだ。

ベーコンBacon同時代どうじだい知的ちてき権威けんいたちを容赦ようしゃなく攻撃こうげきした。名指なざしだ。パリParis神学しんがく教師きょうしアレクサンダーAlexanderオブofヘイルズHalesアルベルトゥスAlbertusマグヌスMagnus。彼らは権威けんいとしてあがめられているが、ギリシャGreeceらず、数学すうがく理解りかいせず、実験じっけんもしたことがない。もの知識ちしき権威けんいころもつつんでいるだけだ、と。この攻撃こうげきベーコンBaconおおくのてきをつくった。が、そこに私怨しえんだけをるのはあさい。いかりのはもっとふか場所ばしょにある。

ベーコンBaconうたのはこうだ。キリストChristusきょう世界せかい聖書せいしょ教父きょうふアリストテレスAristotelēsという巨大きょだい遺産いさんっている。にもかかわらず、なぜこれほど無知むちなのか。なぜ異教徒いきょうとムスリムMuslim学者がくしゃたち)のほうが数学すうがく天文学てんもんがく光学こうがくすぐれているのか。こたえ:知識ちしき獲得かくとく方法ほうほうそのものがこわれているからだ。

ること」と「っているとおもむこと」のあいだには、ふかみぞがある。大半たいはん学者がくしゃみぞづいてすらいない。ベーコンBaconはこのみぞあばくことに生涯しょうがいついやした。

核心かくしん理論りろん

1. よっつの障害しょうがい:なぜ人間にんげん真理しんり到達とうたつできないのか

大著作だいちょさく』はぜん構成こうせいだが、だい建設けんせつではなく破壊はかいからはじまる。成立せいりつしないよっつの原因げんいん、「障害しょうがい」(offendiculaオッフェンディクラ)の解剖かいぼうだ。

第一だいいち障害しょうがいは、脆弱ぜいじゃく不適切ふてきせつ権威けんいへの従属じゅうぞくauctoritatis fragilis et indignae exemplumアウクトーリタティス・フラギリス・エト・インディグナエ・エクセンプルム)。問題もんだい権威けんいそのものではない。アリストテレスAristotelēs聖書せいしょ権威けんいあたいする。だが権威けんいをろくに検証けんしょうもせず丸呑まるのみにする態度たいどやまいなのだ。偽書ぎしょ本物ほんものとして流通りゅうつうし、誤訳ごやくがそのまま権威けんいになる。「アリストテレスAristotelēsがそうった」の一言ひとこと議論ぎろんまる。

第二だいに慣習かんしゅうちからconsuetudinis diuturnitasコンスエートゥーディニス・ディウトゥルニタース)。「ずっとそうしてきた」が根拠こんきょになる。教育きょういく制度せいどカリキュラムcurriculum学位がくい条件じょうけんだれうたがわないまま何十なんじゅうねんつづいているだけのことが、真理しんり見紛みまがわれる。

第三だいさん無知むちなる群衆ぐんしゅう意見いけんsensus vulgi imperitiセンスス・ウルギー・インペリーティー)。専門家せんもんか大衆たいしゅう感覚かんかくわせてうすめる。あるいは大衆たいしゅうこの結論けつろん迎合げいごうする。

そして第四だいよんもっと致命的ちめいてきだ。無知むちせかけの知恵ちえおおかくすこと(occultatio propriae ignorantiae cum ostentatione sapientiae apparentisオックルターティオー・プロプリアエ・イグノーランティアエ・クム・オステンターティオーネ・サピエンティアエ・アッパレンティス)。らないことをらないとえない。専門せんもん用語ようご武装ぶそうし、論理ろんり形式けいしきだけをととのえ、中身なかみからっぽであることをかくす。ベーコンBaconにとって、これが諸悪しょあく根源こんげんだった。ほかみっつの障害しょうがいはすべてここに帰着きちゃくする。「らない」とみとめた瞬間しゅんかんからほんとう探究たんきゅうはじまる。だが人間にんげん無知むちえられない。よろいる。

このよっつの障害しょうがいいて、300ねんフランシスFrancisベーコンBacon血縁けつえん関係かんけいはない)の「よっつのイドラidola」をおもかべたひとがいるだろう。種族しゅぞくイドラidola tribus洞窟どうくつイドラidola specus市場しじょうイドラidola fori劇場げきじょうイドラidola theatri偶然ぐうぜん一致いっちではない。腐敗ふはい個人こじん怠慢たいまんではなく構造こうぞう問題もんだいとして診断しんだんする。その発想はっそうたねは、ロジャーRogerがすでにいていた。

2. 経験けいけんがく論証ろんしょうだけではたしかにならない

大著作だいちょさくだいベーコンBaconは「経験けいけんがく」(scientia experimentalisスキエンティア・エクスペリメンターリス)を独立どくりつした学問がくもんとして提唱ていしょうする。この一節いっせつがベーコンの思想しそうかくだ。

知識ちしき獲得かくとくするにはふたつの仕方しかたがある。論証ろんしょうargumentumアルグメントゥム)によるものと、経験けいけんexperientiaエクスペリエンティア)によるものと。論証ろんしょう結論けつろんをもたらし、我々われわれにそれを承認しょうにんさせるが、確実かくじつにはしない。うたがいをのぞくこともなく、こころ真理しんり直観ちょっかんやすんじることもない。経験けいけんみちによってこころがそれを見出みいだすまでは」(『大著作だいちょさくだいだいしょう)。

この言葉ことば衝撃しょうげき理解りかいするには、十三じゅうさん世紀せいき大学だいがくなにをしていたかを必要ひつようがある。スコラScholaがく論証ろんしょう学問がくもんだ。三段論法さんだんろんぽうみ、前提ぜんていから結論けつろんみちびく。権威けんいあるテクストtextき、反論はんろんならべ、解答かいとうしめす。形式けいしき洗練せんれんされているが、その結論けつろん現実げんじつ合致がっちしているかどうかをたしかめる手続てつづきがけている。ベーコンBaconはそこをいた。

かれげたれいがある。「く」という命題めいだい論証ろんしょうによってったとしよう。三段論法さんだんろんぽうみちびける。だがちかづけてあつさをかんじるまで、「く」はたんなる命題めいだいにすぎない。経験けいけん命題めいだいにくをつける。身体しんたいることとあたまることのあいだにはえがたいみぞがある。

ベーコンBacon称賛しょうさんした実験家じっけんかがいる。マリクールMaricourtペトルスPetrusペトルスPetrusペレグリヌスPeregrinus)。磁石じしゃく性質せいしつ実験じっけんによって系統的けいとうてき調しらべた人物じんぶつで、ベーコンBaconかれを「実験じっけん主人しゅじん」とび、パリParis千人せんにん教師きょうしよりこの一人ひとりのほうが価値かちがあると断言だんげんした。よごして実験じっけんする一人ひとりは、教壇きょうだんべんじる千人せんにんまさる。この確信かくしんベーコンBaconうごかしていた。

ベーコンBacon経験けいけんがくに「みっつの特権とっけん」(tria praerogativaトリア・プラエロガティーウァ)をみとめた。第一だいいちに、諸学しょがく論証ろんしょうみちびいた結論けつろん経験けいけんによって検証けんしょうするちから第二だいにに、学問がくもんでは到達とうたつしえないあたらしい真理しんり発見はっけんするちから。そして第三だいさんに、自然しぜん秘密ひみつさぐ未来みらい予見よけんするちから第三だいさん特権とっけんには錬金術れんきんじゅつによる生命せいめい延長えんちょうまでふくまれる。ここが近代きんだい科学かがくとの決定的けっていてき分岐点ぶんきてんだ。

そう、注意ちゅういがいる。ベーコンBaconの「経験けいけん」は近代きんだい科学かがくの「実験じっけん」と同義どうぎではない。かれは「内的ないてき経験けいけん」(experientia interiorエクスペリエンティア・インテリオル)、すなわち神秘的しんぴてき照明しょうめいによるも「経験けいけん」にふくめている。感覚かんかくによる外的がいてき経験けいけんだけでは不十分ふじゅうぶんで、かみ恩寵おんちょうによる内的ないてき照明しょうめい最高さいこう認識にんしきをもたらすとかれしんじていた。近代きんだい科学者かがくしゃいたらまゆをひそめるだろう。だがこの二重性にじゅうせいてると、ベーコンBaconえなくなる。かれ中世ちゅうせい人間にんげんだ。中世ちゅうせい枠組わくぐみのなかで、経験けいけん頂点ちょうてんえるという破格はかくなことをやった。それだけで十分じゅうぶん過激かげきだ。

3. 光学こうがくperspectivaペルスペクティーウァ):ることの哲学てつがく

大著作だいちょさくだい光学こうがくてられている。分量ぶんりょう精度せいどけており、ベーコンBacon自然学しぜんがく真骨頂しんこっちょうがここにある。

かれ光学こうがくアラビアArabia科学者かがくしゃアルハゼンAlhazenイブンIbnアル=ハイサムal-Haytham、965〜1040ごろ)の『光学こうがくしょ』(Kitāb al-Manāẓirキターブ・アル=マナーズィル)にふか依拠いきょしている。ひかり直線ちょくせん的にすすみ、反射はんしゃ屈折くっせつする。ひかり器官きかんであって、ひかりはな器官きかんではない。古代こだいギリシャGreece放射説ほうしゃせつから光線こうせん対象たいしょうとらえるというせつ)を退しりぞけ、外部がいぶ光源こうげんからかってひかり入射にゅうしゃするという受容じゅようせつった。これだけでも、千年せんねん以上いじょう支配しはいしていた視覚しかく理論りろん転換てんかんだ。

にじ理論りろんにも注目ちゅうもくすべき成果せいかがある。ベーコンBaconにじ太陽光たいようこう屈折くっせつによってしょうじることを認識にんしきし、観察者かんさつしゃ太陽たいようむすせんたいしてやく42角度かくどにじあらわれることを正確せいかく測定そくていした(『大著作だいちょさくだい)。雨上あめあがりのそら見上みあげ、角度かくどはかり、水滴すいてきのなかでのひかりいをう。三段論法さんだんろんぽう教室きょうしつではえない世界せかいが、そらあおいだ瞬間しゅんかんひらける。

レンズlens拡大かくだい効果こうか詳細しょうさい記述きじゅつした。球面きゅうめんガラスglass一部いちぶとおしてちいさな文字もじ拡大かくだいしてる。老眼ろうがん読書どくしょ困難こんなんものにとって、これは福音ふくいんになりうるとベーコンBaconいた。実際じっさい眼鏡めがねきたイタリアItalia発明はつめいされるのは1280年代ねんだいのことで、ベーコンBacon記述きじゅつからわずか10数年すうねんだ。直接ちょくせつ因果いんが関係かんけい証明しょうめいされていないが、レンズlensかんする理論的りろんてき知識ちしき職人しょくにん工房こうぼうつたわった可能性かのうせい排除はいじょできない。

だがベーコンBaconにとって光学こうがくたんなる物理学ぶつりがくいち分野ぶんやではなかった。ひかりかみ活動かつどううつしであり、実在じつざい構造こうぞうそのものだ。グロステストGrossetesteからいだ「ひかり形而上学けいじじょうがく」(metaphysica lucisメタフュシカ・ルーキス)の伝統でんとうのなかで、光学こうがく自然しぜんかみをつなぐ回路かいろだった。世界せかいを「る」ことは、世界せかい根底こんていにある秩序ちつじょれることだ。近代きんだい科学かがく物理ぶつり現象げんしょうとしてのひかりあつかう。だがベーコンBaconにとってひかり存在そんざい原理げんりだった。自然しぜんのなかにかみ痕跡こんせきむこと。これが中世ちゅうせい光学こうがく動機どうきであり、近代きんだい光学こうがくとは部分ぶぶんことなっている。

4. 数学すうがく諸学しょがくかぎ

大著作だいちょさくだい数学すうがく有用性ゆうようせいてられている。ベーコンBacon主張しゅちょう明快めいかいだ。「数学すうがくなしには諸学しょがくも、諸事しょじりえない」(『大著作だいちょさくだい)。天文学てんもんがく暦法れきほう光学こうがく地理学ちりがく音楽おんがくも、数学すうがく土台どだいにある。ベーコンBacon数学すうがく自然しぜん認識にんしきの「もんかぎ」(porta et clavisポルタ・エト・クラーウィス)とんだ。

ここにもベーコンBacon苛立いらだちがある。パリParisでもオックスフォードOxfordでも、神学しんがく教師きょうし大半たいはん数学すうがく軽視けいししていた。論理学ろんりがく形而上学けいじじょうがくさえあれば十分じゅうぶんだ、と。ベーコンBaconはこれをおろかさだとだんじた。

具体例ぐたいれいがある。こよみ誤差ごさだ。ユリウスJuliusれき太陽年たいようねんを365にちと6時間じかん仮定かていしているが、実際じっさいにはそれよりやく11ぷん14びょうみじかい。この微小びしょうなずれが何百年なんびゃくねん蓄積ちくせきすると、復活祭ふっかつさい日付ひづけ実際じっさい春分しゅんぶんからどんどんとおざかっていく。キリストChristusきょうにとって復活祭ふっかつさいもっと重要じゅうよう典礼てんれいだ。その間違まちがっている。ベーコンBaconこよみ改革かいかく教皇きょうこううったえた。実現じつげんしたのはかれ死後しご300ねん、1582ねんグレゴリオGregoriusれき改革かいかくのことだった。ベーコンBacon計算けいさんはほぼ正確せいかくだった。

地理学ちりがくにも数学すうがく不可欠ふかけつだった。ベーコンBacon地球ちきゅうおおきさと陸地りくち分布ぶんぷについてろんじ、ヨーロッパEuropaから西にし航海こうかいすればアジアAsia到達とうたつできる可能性かのうせい示唆しさした(大西洋たいせいようはば実際じっさいよりせま見積みつもった結果けっかだが)。この一節いっせつ後世こうせいピエールPierreダイイd'Ailly枢機卿すうききょうの『世界せかいぞう』(Imago Mundiイマーゴー・ムンディー、1410ねん)に引用いんようされ、そのほんコロンブスColumbusんでいたことがられている。偶然ぐうぜん連鎖れんさえばそれまでだ。だが修道院しゅうどういん書斎しょさい地球ちきゅうおおきさを計算けいさんしていたおとこ数字すうじが、200年後ねんご大西洋たいせいよう横断おうだんするふね背中せなかした可能性かのうせいは、てきれない。

5. 言語げんご堕落だらく原典げんてん回帰かいき

ベーコンBaconいかりでもっと具体的ぐたいてき矛先ほこさき翻訳ほんやく問題もんだいだ。聖書せいしょラテンLatinやくウルガタVulgata)にはあやまりがある。アリストテレスAristotelēsラテンLatinやくアラビアArabiaからの重訳じゅうやくで、げんギリシャGreeceとかけはなれた箇所かしょがある。哲学てつがく神学しんがくも、くさった翻訳ほんやくうえてられた空中くうちゅう楼閣ろうかくではないか。

処方箋しょほうせんギリシャGreeceヘブライHebrewアラビアArabiaまなべ。原典げんてんたれ。翻訳ほんやく鵜呑うのみにするな。ベーコンBaconみずかギリシャGreece文法書ぶんぽうしょき、ヘブライHebrew文法ぶんぽうにもんだ。十三じゅうさん世紀せいきラテンLatin世界せかい複数ふくすう古典語こてんごあやつれる学者がくしゃはごく少数しょうすうだった。ベーコンBaconはその少数者しょうすうしゃのひとりであり、だからこそ翻訳ほんやく劣悪れつあくさに苛立いらだった。

250年後ねんごルネサンスRenaissance人文じんぶん主義者しゅぎしゃたちが「原典げんてんかえれ」(ad fontesアド・フォンテース)とさけんだとき、ベーコンBaconはすでにその地面じめんたがやしていた。

主要しゅよう著作ちょさくガイド

  • 大著作だいちょさく』(Opus Majusオプス・マユス、1267ねん):教皇きょうこうクレメンスClemens四世よんせいてた百科全書ひゃっかぜんしょ大著たいちょぜん無知むち原因げんいん哲学てつがく神学しんがく関係かんけい言語げんご数学すうがく光学こうがく実験じっけん科学かがく道徳どうとく哲学てつがく一冊いっさつベーコンBacon全貌ぜんぼうがわかる。英訳えいやくは Robert B. Burke 訳(1928ねん)が入手にゅうしゅしやすい。邦訳ほうやく完訳かんやく未刊みかん
  • 小著作しょうちょさく』(Opus Minusオプス・ミヌス、1267ねん):『大著作だいちょさく』の補遺ほい要約ようやく錬金術れんきんじゅつalchemiaアルケーミア)にかんする記述きじゅつふくまれる。
  • 第三著作だいさんちょさく』(Opus Tertiumオプス・テルティウム、1267ねん):さらなる補足ほそく弁明べんめい教皇きょうこうが『大著作だいちょさく』をんでくれないことへの焦燥しょうそうがにじむ。
  • 哲学てつがく研究けんきゅう綱要こうよう』(Compendium Studii Philosophiaeコンペンディウム・ストゥディイー・フィロソフィアエ、1271ねん):同時代どうじだい学者がくしゃへの痛烈つうれつ批判ひはん全面ぜんめんしょ処罰しょばつがねになったともわれる。
  • 技術ぎじゅつ自然しぜん秘密ひみつわざについての書簡しょかん』(Epistola de Secretis Operibus Artis et Naturaeエピストラ・デー・セクレーティース・オペリブス・アルティス・エト・ナートゥーラエ):飛行ひこう機械きかい自走じそうしゃ記述きじゅつ有名ゆうめい書簡しょかん帰属きぞく議論ぎろんがあるが、ベーコンBacon技術ぎじゅつかんつたえる文書ぶんしょとしてひろまれてきた。

主要しゅよう批判ひはん論争ろんそう

ベーコンBacon弱点じゃくてんは、当人とうにん性格せいかく不可分ふかぶんだ。同時代どうじだい批判ひはん率直そっちょくだった。かれ毒舌家どくぜつかだ。名指なざしで同僚どうりょう攻撃こうげきし、自分じぶんだけがただしいとり、修道会しゅうどうかい規律きりつさからう。その結果けっかかれ改革かいかく構想こうそうだれにも実行じっこうされなかった。教皇きょうこうんだかどうかすら不明ふめいだ。ただしいことをってもつたわなければ無力むりょくだ、という教訓きょうくんが、ベーコンBacon生涯しょうがいそのものにきざまれている。

近代きんだいからの批判ひはんはもっと根本的こんぽんてきだ。19世紀せいきから20世紀せいき前半ぜんはんにかけて、ベーコンBaconは「近代きんだい科学かがく先駆者せんくしゃ」として過大かだい評価ひょうかされた。ガリレオGalileoニュートンNewtonいた実験じっけん科学かがく直系ちょっけいだ、と。20世紀せいき後半こうはん研究けんきゅうは、このぞうおおきく修正しゅうせいした。

科学史家かがくしかデイヴィッド・リンドバーグLindbergは、ベーコンBaconの「経験けいけん」が近代きんだい実験じっけん同一どういつではないことを丁寧ていねい論証ろんしょうした。ベーコンBacon仮説かせつ検証けんしょう手続てつづきを体系化たいけいかしたわけではない。実験じっけんかえして法則ほうそくみちび帰納法きのうほう定式化ていしきかしたわけでもない。かれの「経験けいけん」には神秘的しんぴてき照明しょうめいふくまれ、占星術せんせいじゅつ錬金術れんきんじゅつ正当せいとういとなみにふくまれている。ベーコンBacon近代きんだい鋳型いがたむのは時代錯誤じだいさくごだ、と。

この批判ひはんただしい。ベーコンBaconを「中世ちゅうせいガリレオGalileo」とぶのはあやまりだ。かれ占星術せんせいじゅつastrologiaアストロロギア)を正当せいとう学問がくもんなしていたし、錬金術れんきんじゅつも「理論的りろんてき錬金術れんきんじゅつ」と「実践的じっせんてき錬金術れんきんじゅつ」を区別くべつしつつ肯定こうていしていた。不老ふろう長寿ちょうじゅくすりelixir vitaeエリクシル・ウィータエ)の可能性かのうせいすら否定ひていしなかった。白衣はくい科学者かがくしゃ灰色はいいろ修道服しゅうどうふくした見出みいだそうとするのは、願望がんぼう投影とうえいだ。だがもどしすぎてもいけない。権威けんいへの盲従もうじゅうこばみ、経験けいけんによる検証けんしょう要求ようきゅうし、原典げんてんもどれとさけんだこと。その姿勢しせい十三じゅうさん世紀せいきにどれほど異質いしつだったかを、過小かしょう評価ひょうかすべきではない。

べつ批判ひはんは、ベーコンBacon独自性どくじせいかう。かれ光学こうがくアルハゼンAlhazenグロステストGrossetesteおおきく依拠いきょしている。「よっつの障害しょうがい」の着想ちゃくそう完全かんぜんなオリジナルとはいがたい(グロステストGrossetesteアリストテレスAristotelēsにも類似るいじ議論ぎろんがある)。ベーコンBacon天才てんさい個々ここ発見はっけんではなく、散在さんざいする洞察どうさつひとつの体系たいけい統合とうごうしようとした構想力こうそうりょくにある。そしてその構想こうそうは、完成かんせいることなく途絶とだえた。

影響えいきょう遺産いさん

ベーコンBacon直接的ちょくせつてき影響えいきょう限定的げんていてきだった。著作ちょさくおおくは写本しゃほんすくなく、ひろまれなかった。かれ学統がくとう弟子でしもほとんどいない。だが間接的かんせつてき影響えいきょう意外いがいふかい。

光学こうがくでは、ポーランドPoland学者がくしゃヴィテロWitelo(1230ねんごろ〜1280ねんごろ)がベーコンBacon成果せいか吸収きゅうしゅうし、大著たいちょペルスペクティーウァPerspectiva』で体系的たいけいてきにまとめた。ヴィテロWiteloのこの著作ちょさくは16世紀せいきかえ刊行かんこうされ、ケプラーKeplerみずからの光学こうがくしょを『ヴィテロWitelo補遺ほい』(Ad Vitellionem Paralipomenaアド・ウィテッリオーネム・パラリポメナ、1604ねん)とだいしたほどだ。ベーコンBaconヴィテロWiteloケプラーKeplerという光学こうがく系譜けいふたしかに存在そんざいする。

伝説でんせつとしての影響えいきょうあなどれない。中世ちゅうせい後期こうきから近世きんせいにかけて、ベーコンBacon魔術師まじゅつしとして伝説化でんせつかされた。「青銅せいどうあたま」(brazen headブレイズン・ヘッド)をつくって未来みらい予言よげんさせたという逸話いつわ(もちろん創作そうさくだ)が14世紀せいきごろから流布るふした。1589ねんごろには劇作家げきさっかロバートRobertグリーンGreeneが『修道士しゅうどうしベーコンBacon修道士しゅうどうしバンゲイBungay』(Friar Bacon and Friar Bungayフライアー・ベーコン・アンド・フライアー・バンゲイ)を上演じょうえんし、ベーコンBacon大衆たいしゅう演劇えんげき人気にんきキャラクターcharacterになった。実在じつざい学者がくしゃ魔術師まじゅつしとして記憶きおくされる。このねじれ自体が、かれ異質いしつさを物語ものがたっている。同時代人どうじだいじんにとって、実験じっけんをする修道士しゅうどうし魔術師まじゅつしえたのだ。

16世紀せいきイングランドEnglandでは、数学者すうがくしゃにして魔術まじゅつ研究家けんきゅうかでもあったジョンJohnディーDee(1527〜1608)がベーコンBacon著作ちょさく蒐集しゅうしゅうし、熱心ねっしん研究けんきゅうした。ディーDeeエリザベスElizabeth一世いっせい宮廷きゅうてい顧問こもんでもあり、数学すうがく自然しぜん魔術まじゅつ統合とうごうというベーコンBacon的な構想こうそういでいた。科学かがく魔術まじゅつがまだ分離ぶんりしていなかった時代じだいに、ベーコンBacon名前なまえは「かくされた探求者たんきゅうしゃ」の象徴しょうちょうとして機能きのうつづけた。

300ねんフランシスFrancisベーコンBacon(1561〜1626)は血縁けつえんではないが、問題もんだい意識いしきかさなりは無視むしできない。改革かいかく偏見へんけん診断しんだん経験けいけん実験じっけん重視じゅうしフランシスFrancisロジャーRogerんでいたかどうかはさだかではないが、いのかたている。なぜ進歩しんぽしないのか。なにさまたげているのか。障害しょうがいのぞくことからはじめなければ、あたらしいてられない。

現代げんだいへの接続せつぞく

ベーコンBaconの「よっつの障害しょうがい」をえてみる。SNSのタイムラインをひらく。第一だいいち障害しょうがい権威けんいへの盲従もうじゅう。「有名ゆうめい医師いしがこうった」「ノーベルNobelしょう受賞者じゅしょうしゃがこういた」。肩書かたがきが内容ないようわりをする。第二だいに障害しょうがい慣習かんしゅう惰性だせい。「うちの業界ぎょうかいではずっとそうやってきた」。第三だいさん大衆たいしゅう偏見へんけん。「みんながそうっている」。バズった投稿とうこうただしい。第四だいよん無知むち偽装ぎそう専門せんもん用語ようごならべた論文ろんぶん要旨ようし精緻せいち統計とうけい処理しょりうらにある空疎くうそ仮説かせつ形式けいしきととのっているが中身なかみがない。再現性さいげんせい危機ききreplication crisisレプリケーション・クライシス)とばれる現象げんしょうは、ベーコンBacon第四だいよん障害しょうがいそのものだ。

教育きょういく現場げんばにもさる。大学だいがく講義こうぎおしえられていることのなんわりが、学生がくせい経験けいけんによって確認かくにんされているだろうか。教科書きょうかしょいてあるからただしい。先生せんせいがそうったからただしい。ベーコンBaconはそれを第一だいいち障害しょうがいんだ。試験しけんてんることと、本当ほんとう理解りかいすることはちがう。教室きょうしつノートnoteうごいているのに、あたままっている。あの状態じょうたい

そして生成せいせいAIの時代じだいだ。チャットボットにいをげれば、ととのった文章ぶんしょうかえってくる。論証ろんしょう形式けいしき完璧かんぺきだ。だが、その出力しゅつりょくは「経験けいけん」によって検証けんしょうされているのか。もっともらしさとただしさはべつのものだ。なめらかな文章ぶんしょうなめらかなままうそをつくことがある。ベーコンBacon見抜みぬいた第四だいよん障害しょうがい、すなわち「せかけの知恵ちえ無知むちおおかくす」構造こうぞうは、AIの出力しゅつりょく無批判むひはんれる態度たいどのなかに反復はんぷくされている。

経験けいけんなくしてらず」。このひとことは、情報じょうほう消費しょうひするだけで「った」になる習慣しゅうかんへのもっとふる警告けいこくだ。検索けんさくエンジンでこたえをつけたとき、あなたは本当ほんとうに「った」のか。それともこたえの文字列もじれつただけなのか。

読者どくしゃへの

  • あなたが「っている」と確信かくしんしていることのうち、自分じぶん経験けいけんたしかめたことはどれだけあるか。のこりはだれ権威けんい依拠いきょしているのか。
  • あなたの職場しょくば学校がっこうで「ずっとそうしてきたから」という理由りゆうだけでつづいている慣行かんこうはないか。それをうたがったとき、周囲しゅういはどう反応はんのうするか。
  • らない」とうことは、あなたにとってどれほどむずかしいか。最後さいごに「わからない」と正直しょうじきえたのはいつだったか。

名言めいげん出典しゅってんつき)

経験けいけんなくして、なにものも十全じゅうぜんにはりえない」 出典しゅってんロジャーRogerベーコンBacon大著作だいちょさくだいだいしょう原文げんぶん:"Sine experientia nihil sufficienter sciri potest."

ベーコンBacon思想しそう一文いちぶん凝縮ぎょうしゅくすればこれになる。論証ろんしょう結論けつろんすが、確信かくしんまない。身体しんたいるまで、完成かんせいしない。

論証ろんしょう結論けつろんをもたらし、我々われわれにそれを承認しょうにんさせるが、確実かくじつにはしない。うたがいをのぞくこともない」 出典しゅってんロジャーRogerベーコンBacon大著作だいちょさくだいだいしょう原文げんぶん:"Argumentum concludit et facit nos concedere conclusionem, sed non certificat neque removet dubitationem."

三段論法さんだんろんぽうで「AはBである」とみちびけても、こころうたがつづける。そのうたがいをすのは論理ろんりではなく経験けいけんだ。

真理しんり認識にんしきにはよっつの障害しょうがいがある。すなわち、脆弱ぜいじゃく不適切ふてきせつ権威けんいへの依拠いきょ慣習かんしゅうながさ、無知むちなる群衆ぐんしゅう感覚かんかく、そしてせかけの知恵ちえみずからの無知むちかくすことである」 出典しゅってんロジャーRogerベーコンBacon大著作だいちょさくだいだいしょう原文げんぶん:"Quattuor vero sunt maxima comprehendendae veritatis offendicula, quae omnem quemcumque sapientem impediunt, et vix aliquem permittunt ad verum titulum sapientiae pervenire: videlicet fragilis et indignae auctoritatis exemplum, consuetudinis diuturnitas, sensus vulgi imperiti, et propriae ignorantiae occultatio cum ostentatione sapientiae apparentis."

なが引用いんようになるが、これがベーコンBacon出発点しゅっぱつてんだ。よっ障害しょうがい無知むち知恵ちえ仮面かめんおおかくすことへの嫌悪けんおは、このおとこ全著作ぜんちょさくつらぬいている。

参考さんこう文献ぶんけん

  • 原典げんてん英訳えいやく:Roger Bacon, The Opus Majus of Roger Bacon, trans. Robert B. Burke, 2 vols., University of Pennsylvania Press, 1928; repr. Kessinger Publishing, 2002.
  • 原典げんてんラテンLatin:Roger Bacon, Opus Majus, ed. John Henry Bridges, 3 vols., Clarendon Press, 1897–1900.
  • 研究書けんきゅうしょ:Jeremiah Hackett (ed.), Roger Bacon and the Sciences: Commemorative Essays, Brill, 1997.
  • 研究書けんきゅうしょ:David C. Lindberg, Roger Bacon and the Origins of Perspectiva in the Middle Ages, Clarendon Press, 1996.
  • 概説がいせつ:David C. Lindberg, "Roger Bacon and the Origins of Perspectiva in the West," in Mathematics and Its Applications to Science and Natural Philosophy in the Middle Ages, ed. E. Grant and J. E. Murdoch, Cambridge University Press, 1987.
  • 概説がいせつ:A. C. Crombie, Robert Grosseteste and the Origins of Experimental Science 1100–1700, Clarendon Press, 1953.
  • 邦語ほうご概説がいせつ伊東いとう俊太郎しゅんたろう近代きんだい科学かがく源流げんりゅう中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ中公新書ちゅうこうしんしょ)、1978ねん
  • 概説がいせつ:Brian Clegg, The First Scientist: A Life of Roger Bacon, Carroll & Graf, 2003.(邦訳ほうやくなし。一般いっぱんけの評伝ひょうでん伝説でんせつ史実しじつ整理せいり丁寧ていねい
  • 補助ほじょウェブweb資料しりょう:"Roger Bacon", Stanford Encyclopedia of Philosophy.