「すべての人間にんげん本性ほんせいることをほっする。その証拠しょうこに、感覚かんかくへの愛好あいこうがある。」こうされるのは、西洋せいよう哲学てつがく史上しじょうもっと影響力えいきょうりょくのある書物しょもつのひとつ、アリストテレスAristotelēsの『形而上学けいじじょうがく』(『タ・メタ・タ・ピュシカTa meta ta physika』I.1, 980a21)の冒頭ぼうとうである。この一文いちぶんには、への欲求よっきゅう人間にんげん本質ほんしつなすアリストテレスの根本こんぽん姿勢しせい凝縮ぎょうしゅくされている。

アリストテレスAristotelēs紀元前きげんぜん4世紀せいきギリシャGreeceき、哲学てつがく論理学ろんりがく自然学しぜんがく倫理学りんりがく政治学せいじがく詩学しがく生物学せいぶつがく、つまりのほぼすべての領域りょういき体系たいけいてきろんじた。「万学ばんがく」とばれるゆえんである。プラトンPlatōn感覚かんかく世界せかい彼方かなたにあるイデアideaしん実在じつざいもとめたのにたいし、アリストテレスはまえにある個物こぶつ(このうま、この人間にんげん、このかし)こそが第一だいいち実在じつざいウーシアousia)であると主張しゅちょうした。哲学てつがく天上てんじょうから地上ちじょうもどした。この転換てんかんがもたらした影響えいきょうはかれない。

しかしアリストテレスはたんなる経験けいけん主義者しゅぎしゃではない。かれ個物こぶつのうちにかたち形相けいそうエイドスeidos)と材料ざいりょう質料しつりょうヒュレーhylē)というふたつの側面そくめん見出みいだし、さらによっつの原因げんいん(「なにからできているか」「なにであるか」「なにうごかしたか」「なにのためか」)によって「なぜ」を徹底てっていてきくす方法ほうほう確立かくりつした。また「まだ実現じつげんしていないが、実現じつげんしうる状態じょうたい」(可能態かのうたいデュナミスdynamis)から「実現じつげんした状態じょうたい」(現実態げんじつたいエネルゲイアenergeia)への展開てんかいとして変化へんか運動うんどう説明せつめいし、存在そんざいのあらゆる次元じげん統一とういつてき把握はあくしようとした。

ほん記事きじでは、形而上学けいじじょうがく論理学ろんりがく自然学しぜんがく倫理学りんりがく政治学せいじがく横断おうだんしつつ、アリストテレスがなにい、いかなる体系たいけいきずいたのかをう。そしてそのいが2400ねん現代げんだいにどうひびくかを検討けんとうする。

この記事きじ要点ようてん

  • 四原因説しげんいんせつ形相けいそう質料しつりょうろん:アリストテレスはあらゆる存在そんざい変化へんか質料因しつりょういん形相因けいそういん起動因きどういん目的因もくてきいんよっつから説明せつめいした。個物こぶつ形相けいそう質料しつりょう複合体ふくごうたいシュノロンsynolon)であり、プラトンのイデアideaのように分離ぶんりして存在そんざいする普遍ふへんではなく、具体ぐたいてき事物じぶつのなかにこそ本質ほんしつがある。この枠組わくぐみは自然しぜん科学かがく方法ほうほうろん決定けっていてき影響えいきょうあたえた。
  • 論理学ろんりがくオルガノンorganon)と三段論法さんだんろんぽう:アリストテレスは形式けいしき論理学ろんりがく史上しじょうはじめて体系たいけいし、三段論法さんだんろんぽうシュロギスモスsyllogismos)を推論すいろん基本きほん形式けいしきとして定式ていしきした。この論理学ろんりがくは19世紀せいきまで西洋せいよう知的ちてき基盤きばんでありつづけた。
  • 中庸ちゅうようとくエウダイモニアeudaimonia人間にんげんにとっての最高善さいこうぜん幸福こうふくエウダイモニアeudaimonia)であり、それはとくそくしたたましい活動かつどうによって実現じつげんされる。とくとは過剰かじょう不足ふそく中間ちゅうかんメソテースmesotēs)にある性格せいかく状態じょうたいであり、習慣しゅうかん実践じっせんによって獲得かくとくされる。

生涯しょうがい時代じだい背景はいけい

アリストテレスAristotelēs紀元前きげんぜん384ねんマケドニアMakedonia王国おうこく辺境へんきょうまちスタゲイラStageiraまれた。ちちニコマコスNikomachosマケドニアMakedoniaおうアミュンタスAmyntas3せい侍医じいであった。この医師いし家系かけいまれたという事実じじつは、経験けいけんてき観察かんさつおもんじるアリストテレスの知的ちてき姿勢しせい背景はいけいをうかがわせる(ディオゲネス・ラエルティオスDiogenēs Laertios哲学者てつがくしゃ列伝れつでん』V.1)。

17さいのとき(紀元前きげんぜん367ねん)、アリストテレスはアテナイAthēnaiおもむき、プラトンの学園がくえんアカデメイアAkadēmeia入門にゅうもんした。以後いご20年間ねんかん(プラトンがぼっする紀元前きげんぜん347ねんまで)アカデメイアに在籍ざいせきした。プラトンはアリストテレスを「学園がくえん知性ちせい」(ヌースnous)とんだとつたえられ(ディオゲネス・ラエルティオスDiogenēs LaertiosV.1)、師弟してい関係かんけい親密しんみつでありながら知的ちてき緊張きんちょうはらんでいた。アリストテレス自身じしんのちにこういている。「プラトンはともであるが、真理しんりはよりともである(アミクス・プラトー・セド・マギス・アミカ・ウェリタスamicus Plato, sed magis amica veritas)」(『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』I.6, 1096a16の趣旨しゅしをラテン定式ていしきしたもの)。

プラトンの死後しご、アリストテレスはアテナイをはなれ、しょうアジアのアッソスAssos僭主せんしゅヘルミアスHermias庇護ひごのもと研究けんきゅうつづけた。この時期じきにヘルミアスの養女ようじょ一説いっせつにはめいピュティアスPythias結婚けっこんし、同名どうめいむすめをもうけている(ディオゲネス・ラエルティオスDiogenēs LaertiosV.1)。のちヘルミアスがペルシアPersiaらえられ処刑しょけいされると、アリストテレスはレスボスLesbosとううつり、弟子でしテオプラストスTheophrastosとともに動植物どうしょくぶつ精密せいみつ観察かんさつ記録きろく没頭ぼっとうした。ここでの研究けんきゅうは『動物誌どうぶつし』(ヒストリア・アニマリウムHistoria Animalium)『動物部分論どうぶつぶぶんろん』『動物発生論どうぶつはっせいろん』として結実けつじつし、経験けいけんてき自然しぜん科学かがく先駆せんくけとなった。紀元前きげんぜん343ねんにはマケドニアMakedoniaおうピリッポスPhilippos2せいまねかれ、わか王子おうじアレクサンドロスAlexandros(のちの大王だいおう)の教育きょういくまかされた。哲学者てつがくしゃ征服者せいふくしゃ出会であいは歴史れきしあやであるが、両者りょうしゃ思想しそうてき影響えいきょう関係かんけいについてはおおくが不明ふめいのままである。

紀元前きげんぜん335ねん、アリストテレスはアテナイにもどり、リュケイオンLykeionアポロン・リュケイオスApollōn Lykeios神域しんいき)にみずからの学園がくえんひらいた。弟子でしたちと回廊かいろうペリパトスperipatos)を散歩さんぽしながら議論ぎろんしたことから「逍遥しょうよう学派がくは」(ペリパトスPeripatos学派がくは)とばれた。ここでアリストテレスは12年間ねんかんにわたって講義こうぎ研究けんきゅう執筆しっぴつんだ。現存げんそんする著作ちょさく大部分だいぶぶんはこの時期じき講義こうぎノートにもとづくとされる。

紀元前きげんぜん323ねん、アレクサンドロス大王だいおう急死きゅうしすると、アテナイにはんマケドニア感情かんじょうたかまった。アリストテレスは不敬ふけいつみ告発こくはつされる危険きけんさっし、「アテナイの人々ひとびと哲学てつがくたいして二度にどつみおかすことのないように」とかたって(ソクラテスSōkratēs処刑しょけい念頭ねんとういた言葉ことばカルキスChalkis退しりぞき、よく紀元前きげんぜん322ねんに62さいぼっした(ディオゲネス・ラエルティオスDiogenēs LaertiosV.5-10)。

ミニ年表ねんぴょう

  • 紀元前きげんぜん384ねんスタゲイラStageiraまれる。ちちマケドニアMakedoniaおう侍医じい
  • 紀元前きげんぜん367ねん:17さいアテナイAthēnaiへ。プラトンのアカデメイアAkadēmeia入門にゅうもん
  • 紀元前きげんぜん347ねん:プラトンぼっ。アカデメイアをはなアッソスAssos
  • 紀元前きげんぜん345〜343ねんレスボスLesbosとう生物せいぶつがくてき観察かんさつ従事じゅうじ
  • 紀元前きげんぜん343ねんアレクサンドロスAlexandros教育きょういくがかり就任しゅうにん
  • 紀元前きげんぜん335ねん:アテナイに帰還きかんリュケイオンLykeion開設かいせつ
  • 紀元前きげんぜん323ねん:アレクサンドロス大王だいおう死去しきょはんマケドニア感情かんじょうたかまりでカルキスChalkis退去たいきょ
  • 紀元前きげんぜん322ねんカルキスChalkisにてぼっ(62さい

この哲学者てつがくしゃなにうたのか

プラトンは感覚かんかく世界せかい背後はいご永遠えいえん不変ふへんイデアidea想定そうていした。わたしたちがにする個々ここうまはなは、天上てんじょう存在そんざいする完全かんぜんな「うまのイデア」「はなのイデア」の不完全ふかんぜん模像もぞうにすぎないとされた。しかしアリストテレスはこの理論りろん根本こんぽんてき疑問ぎもんげた。もし「うまのイデア」が天上てんじょうにあるとして、まえのこのうまはしったり成長せいちょうしたりすることを、とおはなれたイデアはどう説明せつめいできるのか(『形而上学Metaphysica』I.9, 990b-991b)。個物こぶつからはなされたイデアは、個物こぶつ原因げんいんになりえないのではないか。

アリストテレスがてたいの核心かくしんはこうである。「あるもの」とはなにか(ティ・ト・オンti to on存在そんざいするとはどういうことか、事物じぶつはなぜ変化へんかするのか、知識ちしきはいかにして成立せいりつするのか、人間にんげんはいかにきるべきか。これらのいを、天上てんじょうイデアideaではなく、地上ちじょう経験けいけんてき事実じじつから出発しゅっぱつしてかすこと。それがアリストテレスの哲学てつがく根本こんぽん方針ほうしんであった。

こうしてアリストテレスは「存在そんざいとしての存在そんざい探究たんきゅうするがく」(『形而上学Metaphysica』IV.1, 1003a21、のちに「第一だいいち哲学てつがく」とばれるもの)を構想こうそうした。自然学しぜんがく自然しぜんかいを、数学すうがくすう図形ずけいあつかうが、第一だいいち哲学てつがくはそもそも「存在そんざいするとはどういうことか」をう。すべての学問がくもん土台どだいとなるいである。ここにアリストテレスの壮大そうだい体系たいけいはじまる。

核心かくしん理論りろん

1. 実体じったいウーシアousia)── 存在そんざい第一だいいち意味いみ

存在そんざいおおくの仕方しかたかたられる」(『形而上学Metaphysica』IV.2, 1003a33)。アリストテレスの出発点しゅっぱつてんはここにある。わたしたちが「ある」とうとき、その意味いみ一様いちようではない。「ソクラテスSōkratēsがいる」と「しろい」と「3キュビトcubitある」と「二倍にばいの」とでは、存在そんざい仕方しかたがそれぞれことなる。アリストテレスはこうした存在そんざい種類しゅるい範疇はんちゅうカテゴリアkatēgoria)として整理せいりし、実体じったい性質せいしつりょう関係かんけいなどに分類ぶんるいした。そのうえでかれ強調きょうちょうするのは、すべての範疇はんちゅう実体じったい前提ぜんていとするということである。「しろい」が存在そんざいするためには、しろい「なにか」(たとえばしろかべしろかみ)がなければならない。いろおおきさだけがちゅういて存在そんざいすることはない。

アリストテレスは実体じったい二重にじゅう規定きていした。第一だいいち実体じったいとは個別こべつ具体ぐたいてき存在そんざい(「この人間にんげん」「このうま」)であり(『範疇論はんちゅうろん』5, 2a11-19)、第二だいに実体じったいとはしゅ(「人間にんげん」)やるい(「動物どうぶつ」)である。プラトンが普遍ふへんイデアidea)に第一だいいち実在じつざいせいみとめたのとはまさぎゃくである。個物こぶつこそがもっともリアルなものだ。これがアリストテレスの形而上学けいじじょうがく基盤きばんである。

2. 形相けいそう質料しつりょうヒュレモルフィズムhylomorphism

個物こぶつ形相けいそうエイドスeidosモルフェーmorphē)と質料しつりょうヒュレーhylē)の複合体ふくごうたいシュノロンsynolon)である。青銅せいどう彫像ちょうぞうれいれば、青銅せいどう質料しつりょうであり、彫像ちょうぞうかたち形相けいそうである(『形而上学Metaphysica』VII.3, 1029a3-5)。形相けいそうはプラトンのイデアideaおなギリシャGreeceエイドスeidos)でばれるが、決定けっていてきことなるのは、それが個物こぶつから分離ぶんりして存在そんざいするのではなく、質料しつりょうのなかに内在ないざいするてんである。

生物せいぶつにおいてこの枠組わくぐみはいっそう明確めいかくになる。たましいプシュケーpsychē)は身体しんたい形相けいそうであり、身体しんたいたましい質料しつりょうである(『たましいについて』II.1, 412a19-21)。たとえば形相けいそうは「はたらき」であり、おの形相けいそうは「はたらき」である。おなじように、たましいとは身体しんたいから独立どくりつした霊的れいてき実体じったいではなく、きている身体しんたい全体ぜんたいの「はたらき」(栄養えいようり、感覚かんかくし、思考しこうする活動かつどうそのもの)である。アリストテレスの言葉ことばでは自然しぜんてき身体しんたいの「第一だいいち現実態げんじつたい」と表現ひょうげんされる。このかんがかたは、たましい身体しんたい別々べつべつ存在そんざいなすプラトンてき心身しんしん二元論にげんろん退しりぞけるものであり、こころ身体しんたい機能きのうとしてとらえる現代げんだい機能きのう主義しゅぎ先駆せんくともえる。

3. 四原因説しげんいんせつ ── 「なぜ」をくす

アリストテレスは「る」とは「原因げんいんる」ことであるとした(『自然学Physica』II.3, 194b17-20)。そして原因げんいんにはよっつの種類しゅるいがある。

(1)質料因しつりょういんヒュレーhylē):それが「なにから」できているか。いえにおける煉瓦れんが木材もくざい。(2)形相因けいそういんエイドスeidos):それが「なにであるか」。いえ設計せっけい。(3)起動因きどういんアルケー・テース・キネーセオースarchē tēs kinēseōs):「なにが」それをうごかしたか。いえてた建築家けんちくか。(4)目的因もくてきいんテロスtelos):「なにのために」。むためにてられたいえ。このよっつの原因げんいんたがいに独立どくりつしているのではなく、ひとつの事物じぶつよっつの角度かくどから説明せつめいするものである。いえいえとして存在そんざいするためには、材料ざいりょうがあり、設計せっけいがあり、てるものがいて、むという目的もくてきがある。このよっつがすべてそろってはじめて「なぜこのいえがあるのか」を十分じゅうぶん説明せつめいしたことになる。

アリストテレスにとって、自然しぜんもまた目的もくてきをもってはたらく。かし偶然ぐうぜんかしになるのではなく、かしになるために成長せいちょうする。るために存在そんざいし、むためにえている。この目的論もくてきろんテレオロジーteleology)は、自然しぜん現象げんしょう機械きかいてき因果いんがだけで説明せつめいする近代きんだい科学かがく世界観せかいかんとはするど対立たいりつする。しかし生物学せいぶつがく領域りょういきでは、「この器官きかんなんのためにあるのか」といういは今日こんにちでも有効ゆうこうでありつづけている。「自然しぜん無駄むだなことをしない」(『政治学Politica』I.2, 1253a9)──この原理げんりは、自然しぜん選択せんたくによる適応てきおう説明せつめいとあるしゅ構造こうぞうてき類似るいじせる。

4. 可能態かのうたい現実態げんじつたいデュナミスdynamisエネルゲイアenergeia

変化へんかとはなにか。パルメニデスParmenidēs変化へんか否定ひていし、プラトンは変化へんかかげ世界せかいめた。アリストテレスはこの難問なんもん可能態かのうたいデュナミスdynamis)と現実態げんじつたいエネルゲイアenergeia)の区別くべつ解決かいけつした(『形而上学Metaphysica』IX.1-9)。

かし可能態かのうたいとしてのかしであり、成長せいちょうしてかしになったとき現実態げんじつたいたっする。おなじように、大理石だいりせきかたまりにはうつくしい彫像ちょうぞうになる可能かのうせいひそんでおり、彫刻家ちょうこくかによってかたちあたえられたとき現実態げんじつたいたっする。つまり変化へんかとは、あるもののうちめられていた可能かのうせい現実げんじつ姿すがたとしてあらわれることである。アリストテレスはこれを厳密げんみつに「可能かのうてきなものが可能かのうてきであるかぎりにおいて現実げんじつすること」と定義ていぎした(『自然学Physica』III.1, 201a10-11)。ここで重要じゅうようなのは、存在そんざいが「あるか、ないか」の二択にたくではなくなるというてんである。「まだ完全かんぜんにはないが、りうる」という中間ちゅうかん状態じょうたいみとめることで、パルメニデスParmenidēsふうじた「からの生成せいせい」の難問なんもん回避かいひしつつ、わたしたちが日々ひびにしている変化へんかたね芽吹めぶき、どもが大人おとなになる)を合理ごうりてき説明せつめいできるようになる。

そしてアリストテレスは現実態げんじつたい可能態かのうたい先立せんだつと主張しゅちょうする(『形而上学Metaphysica』IX.8)。にわとりたまご先立せんだつ。完成かんせいした形態けいたいこそが可能態かのうたい目指めざすところであり、存在そんざいろんてき優先ゆうせんする。この原理げんり宇宙うちゅうろん頂点ちょうてんである「不動ふどう動者どうしゃ」へとつながる。

5. 不動ふどう動者どうしゃ ── 純粋じゅんすい現実態げんじつたい

運動うんどう永遠えいえんであるとアリストテレスはかんがえた。しかし運動うんどう連鎖れんさには究極きゅうきょく原因げんいん必要ひつようである。なにかをうごかすものは、それ自身じしんべつのものにうごかされている。この系列けいれつ無限むげんさかのぼることはできない。したがって、みずからはうごかずに一切いっさいうごかすもの、すなわち「不動ふどう動者どうしゃ」(ト・プロートン・キヌーン・アキネートンto prōton kinoun akinēton)が存在そんざいしなければならない(『形而上学Metaphysica』XII.7, 1072a23-b3)。

不動ふどう動者どうしゃ純粋じゅんすい現実態げんじつたいであり、一切いっさい可能態かのうたいふくまない。変化へんかしうるものはまだ完成かんせいしていないが、不動ふどう動者どうしゃにはそうした未完成みかんせいさが一切いっさいない。それは「思惟しい思惟しい」(ノエーシス・ノエーセオースnoēsis noēseōs、つまり純粋じゅんすい知性ちせいそのものが永遠えいえんみずからを思惟しいしつづける活動かつどう)として存在そんざいする(XII.9, 1074b33-35)。

では、うごかないものがどうやって世界せかいうごかすのか。アリストテレスのこたえは独特どくとくである。不動ふどう動者どうしゃ物理ぶつりてきちから世界せかいすのではなく、「あいされるものとしてうごかす」(XII.7, 1072b3)。これは比喩ひゆかんがえるとかりやすい。あこがれの人物じんぶつは、なに命令めいれいしなくても周囲しゅういひとびとふるたせ、より自分じぶんになろうとする意欲いよくす。それとおなじように、完全かんぜんなるものの存在そんざいそのものが万物ばんぶつあこがれをこし、万物ばんぶつはそれにかってみずからを実現じつげんしようとする。いわば宇宙うちゅうつらぬ目的もくてきろんてき引力いんりょくである。この概念がいねんのち中世ちゅうせいキリストきょう神学しんがく、とりわけトマス・アクィナスThomas Aquinasかみ存在そんざい証明しょうめい決定けっていてき影響えいきょうあたえた。

6. 論理学ろんりがく ── 三段論法さんだんろんぽう学問がくもん道具どうぐ

アリストテレスは論理学ろんりがく哲学てつがく一部いちぶではなく、あらゆる学問がくもん先立せんだつ「道具どうぐ」(オルガノンorganon)と位置いちづけた。かれ論理学ろんりがく著作ちょさく(『範疇論はんちゅうろん』『命題論めいだいろん』『分析論ぶんせきろん前書ぜんしょ後書こうしょ』『トピカTopica』『詭弁論駁論きべんろんばくろん』)はのちにまとめて「オルガノンOrganon」とばれた。

核心かくしん三段論法さんだんろんぽうシュロギスモスsyllogismos)である。「すべての人間にんげんぬ(大前提だいぜんてい)、ソクラテスSōkratēs人間にんげんである(小前提しょうぜんてい)、ゆえにソクラテスSōkratēsぬ(結論けつろん)」。わたしたちが日常にちじょうてきおこなっている推論すいろんを、アリストテレスは「すべてのMはPである、すべてのSはMである、ゆえにすべてのSはPである」という形式けいしきとしてした。この形式けいしき推論すいろん基本きほん単位たんいとして抽出ちゅうしゅつされ、妥当だとう推論すいろん形式けいしき網羅もうらてき分類ぶんるいされた(『分析論ぶんせきろん前書ぜんしょ』I.1-7)。カントKantは『純粋じゅんすい理性りせい批判ひはん』の序文じょぶんで、アリストテレスの論理学ろんりがくは「以来いらい一歩いっぽ後退こうたいする必要ひつようがなく、また一歩いっぽ前進ぜんしんすることができなかった」とべた(Bviii)。19世紀せいきフレーゲFrege述語じゅつご論理学ろんりがく創始そうしするまで、アリストテレスの論理学ろんりがくは2000ねん以上いじょう西洋せいよう思想しそう基盤きばんでありつづけた。

7. 倫理学りんりがく ── 中庸ちゅうようとくエウダイモニアeudaimonia

アリストテレスの倫理学りんりがく幸福こうふくエウダイモニアeudaimonia)から出発しゅっぱつする。「あらゆる技術ぎじゅつ、あらゆる探究たんきゅうおなじくあらゆる実践じっせん選択せんたくは、なにらかのぜん目指めざしているとおもわれる」(『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』I.1, 1094a1-3)。ぜんのなかのぜん、つまりそれ自体じたいのためにもとめられ、のいかなる目的もくてき手段しゅだんでもないものが幸福こうふくエウダイモニアeudaimonia)である。

では幸福こうふくとは具体ぐたいてきなにか。アリストテレスは「とくアレテーaretē)にそくしたたましい活動かつどう」(I.7, 1098a16-17)と定義ていぎする。幸福こうふくとは一時いちじ快感かいかん財産ざいさん所有しょゆうではなく、とくにかなったかた生涯しょうがいにわたって実践じっせんつづけること(一羽いちわつばめはるつくるのではない、I.7, 1098a18)である。

とく倫理りんりてきとく)とは過剰かじょう不足ふそく中間ちゅうかん、つまり中庸ちゅうようメソテースmesotēs)にある性格せいかく状態じょうたいヘクシスhexis)である(II.6, 1106b36-1107a2)。勇気ゆうき無謀むぼう過剰かじょう)と臆病おくびょう不足ふそく)の中間ちゅうかんであり、気前きまえさは浪費ろうひ吝嗇りんしょく中間ちゅうかんである。ただし中庸ちゅうよう算術さんじゅつてき中間ちゅうかんではなく、状況じょうきょうひとときおうじてことなる。「適切てきせつときに、適切てきせつ事柄ことがらについて、適切てきせつひとたいして、適切てきせつ目的もくてきのために、適切てきせつ仕方しかたで」(II.6, 1106b21-23)かんじ、行為こういすることがとくである。

重要じゅうようなのは、とくまれつきではなく習慣しゅうかんエトスethos)によって獲得かくとくされるというてんである(II.1, 1103a14-26)。竪琴たてごとくことによって竪琴たてごときになるように、勇敢ゆうかん行為こういかえすことによって勇敢ゆうかんになる。倫理りんり理論りろんではなく実践じっせん問題もんだいであり、っているだけでは不十分ふじゅうぶんで、おこなわなければならない。

こうしたとく孤立こりつした個人こじんのなかで完成かんせいするのではない。アリストテレスはぜんせいにとって他者たしゃとの関係かんけい不可欠ふかけつであることを重視じゅうしし、『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』のぜん10かんのうち2かん(VIII-IXかん)を友愛ゆうあいピリアphilia)の分析ぶんせきてている。友愛ゆうあいにはみっつの種類しゅるいがある。有用ゆうようせいもとづく友愛ゆうあい商取引しょうとりひきのようにたがいの利益りえきのための関係かんけい)、快楽かいらくもとづく友愛ゆうあい若者わかものたのしさを共有きょうゆうする関係かんけい)、そしてとくもとづく完全かんぜん友愛ゆうあい相手あいてぜんそのものをねが関係かんけい)である(VIII.3, 1156a6-b6)。完全かんぜん友愛ゆうあいたがいがとくある人間にんげんであることを前提ぜんていとし、時間じかん親密しんみつさを必要ひつようとするためまれであるが、それこそがぜんせい不可欠ふかけつ要素ようそである。「ともなくして何人なんぴときることをえらばないであろう、たとえのすべてのぜんっていたとしても」(VIII.1, 1155a5-6)。

では、とくにかなったせいのなかでもっと幸福こうふくかたとはなにか。『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』の最終巻さいしゅうかんでアリストテレスがしめこたえは、観想かんそうてきせいビオス・テオレーティコスbios theōrētikos)である(X.7-8, 1177a12-1179a32)。これは宇宙うちゅう自然しぜん真理しんりをただりたいという純粋じゅんすい欲求よっきゅうしたがい、探究たんきゅうそのものに没頭ぼっとうするかたである。観想かんそう自足じそくてきであり、なにかの手段しゅだんではなくそれ自体じたいのためにもとめられる。これは知性ちせいてきとくディアノエーティケー・アレテーdianoētikē aretē)の最高さいこう形態けいたいであり、倫理りんりてきとくもとづく実践じっせんてきせいとともに幸福こうふくふたつのはしらをなす。ただしアリストテレスは現実げんじつ主義者しゅぎしゃでもあり、幸福こうふくには健康けんこう財産ざいさん友人ゆうじんといった外的がいてきぜんもある程度ていど必要ひつようであるとみとめた(I.8, 1099a31-b8)。純粋じゅんすい精神せいしん主義しゅぎでもなく物質ぶっしつ主義しゅぎでもない、この均衡きんこう感覚かんかくもまたアリストテレスの特徴とくちょうである。

8. 政治学せいじがく ── 「人間にんげんはポリスてき動物どうぶつである」

人間にんげん本性ほんせいポリスpolisてき動物どうぶつゾーオン・ポリティコンzōon politikon)である」(『政治学Politica』I.2, 1253a2-3)。アリストテレスはこう宣言せんげんした。人間にんげん一人ひとりではぜんきることができない。言葉ことばわし、ほうさだめ、正義せいぎ不正義ふせいぎろん共同体きょうどうたいのなかでこそ、人間にんげん人間にんげんとして完成かんせいする。倫理学りんりがく個人こじん幸福こうふくろんじるのにたいし、政治学せいじがく共同体きょうどうたい全体ぜんたい幸福こうふくろんじる。したがって政治学せいじがく倫理学りんりがく延長えんちょうであり、「最高さいこうのアルキテクトニケー(統轄とうかつてき学問がくもん)」である(『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』I.2, 1094a26-b7)。

アリストテレスは158の都市とし国家こっか政体せいたい収集しゅうしゅう分析ぶんせきし(その大部分だいぶぶんうしなわれたが『アテナイAthēnai人の国制こくせい』は現存げんそんする)、政体せいたい支配者しはいしゃかず一人ひとり少数しょうすう多数たすう)と目的もくてき共通善きょうつうぜん私利しりか)でろく類型るいけいけた(『政治学Politica』III.7)。ただしい政体せいたい王政おうせい貴族政きぞくせい国制こくせいポリテイアpoliteia)。その逸脱いつだつ形態けいたい僭主政せんしゅせい寡頭政かとうせい民主政みんしゅせい。アリストテレスは中間ちゅうかんそうあつい「混合こんごう政体せいたい」をもっと安定あんていした政治せいじ形態けいたいかんがえた(IV.11)。これもまた「中庸ちゅうよう」の精神せいしん政治せいじてき応用おうようといえる。

主要しゅよう著作ちょさくガイド

  • 形而上学けいじじょうがく』(タ・メタ・タ・ピュシカTa meta ta physika)── 存在そんざいとしての存在そんざいう「第一だいいち哲学てつがく」。実体じったい原因げんいん不動ふどう動者どうしゃろんじる。邦訳ほうやくいでたかしやく岩波文庫いわなみぶんこ)。
  • ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』(エーティカ・ニコマケイアĒthika Nikomacheia)── 幸福こうふくとく友愛ゆうあい観想かんそうてきせいろんじた倫理学りんりがく最高さいこう傑作けっさく邦訳ほうやく高田たかだ三郎さぶろうやく岩波文庫いわなみぶんこ)、ぼく一功いっこうやく京都大学学術出版会きょうとだいがくがくじゅつしゅっぱんかい)。
  • 自然学しぜんがく』(ピュシカPhysica)── 運動うんどう変化へんか場所ばしょ時間じかん無限むげんろんじた自然しぜん哲学てつがく基礎きそ文献ぶんけん
  • 政治学せいじがく』(ポリティカPolitica)── 国家こっか政体せいたい分析ぶんせき政治学せいじがく源流げんりゅう邦訳ほうやく山本やまもと光雄みつおやく岩波文庫いわなみぶんこ)。
  • たましいについて』(デ・アニマDe Anima)── たましい身体しんたい形相けいそう定義ていぎこころ哲学てつがく原点げんてん
  • 詩学しがく』(ペリ・ポイエーティケースPeri Poiētikēs)── 悲劇ひげき分析ぶんせき模倣もほうミメーシスmimēsis)と浄化じょうかカタルシスkatharsis)の理論りろん西洋せいよう文芸ぶんげい批評ひひょう基盤きばんきずいた。
  • 分析論ぶんせきろん前書ぜんしょ後書こうしょ』(アナリュティカAnalytica)── 三段論法さんだんろんぽう学問がくもんてき証明しょうめい理論りろん形式けいしき論理学ろんりがく出発点しゅっぱつてん
  • 弁論術べんろんじゅつ』(レートリケーRhētorikē)── 説得せっとく技術ぎじゅつ体系たいけいてき分析ぶんせき論証ろんしょうロゴスlogos)・性格せいかくエートスēthos)・感情かんじょうパトスpathos)によるみっつの説得せっとく手段しゅだんろんじ、西洋せいよう修辞学しゅうじがく基盤きばんきずいた。

主要しゅよう批判ひはん論争ろんそう

1. 目的論もくてきろんへの批判ひはん:「いしはなぜちるのか」。アリストテレスなら「いし自然しぜん場所ばしょ下方かほう)へかうため」とこたえるが、近代きんだい科学かがくは「重力じゅうりょくというちからはたらくから」とこたえる。ガリレオGalileoニュートンNewton目的因もくてきいん科学かがく説明せつめいから排除はいじょし、おもとして機械きかいろんてき因果いんが(とりわけ起動因きどういん中心ちゅうしんとする説明せつめい)で自然しぜん説明せつめいしようとした。ベーコンBacon目的因もくてきいん探究たんきゅうを「処女しょじょのごとくなにまない」とだんじた(『学問がくもん進歩しんぽ』(デ・アウグメンティスDe Augmentis Scientiarum)III.4)。目的論もくてきろん追放ついほう近代きんだい科学かがく成立せいりつ条件じょうけんのひとつであった。

2. 論理学ろんりがく限界げんかい:アリストテレスの三段論法さんだんろんぽうは「AはBである」という主語しゅご-述語じゅつご形式けいしき命題めいだいだけをあつかう。しかし「AはBよりおおきい」のような関係かんけい命題めいだいや、「すべてのxについて、あるyが存在そんざいして…」のような複雑ふくざつ量化りょうか構造こうぞうあつかえない。19世紀せいきフレーゲFrege述語じゅつご論理学ろんりがく創始そうしし、これらの形式けいしきあつかえるようになった。アリストテレスの論理学ろんりがくは2000ねんにわたる偉大いだい出発点しゅっぱつてんであったが、現代げんだい論理学ろんりがくかられば射程しゃていかぎられていることはいなめない。

3. 自然しぜん奴隷どれいろん女性じょせいかん:アリストテレスは「ある人間にんげん本性ほんせい奴隷どれいである」(『政治学Politica』I.5, 1254a14-17)とべ、女性じょせい理性りせいにおいて男性だんせいおとるとした(I.13, 1260a12-14)。この立場たちば古代こだい社会しゃかい構造こうぞう反映はんえいしているとはいえ、現代げんだい平等びょうどう主義しゅぎ観点かんてんからはきびしく批判ひはんされる。アリストテレスの思想しそう受容じゅようするさいには、この限界げんかい明確めいかく認識にんしきする必要ひつようがある。

4. 現代げんだいとく倫理学りんりがくからの再評価さいひょうか:20世紀せいき後半こうはんアンスコムAnscombe論文ろんぶん近代きんだい道徳どうとく哲学てつがく」(1958ねん)を契機けいきに、義務ぎむろん功利こうり主義しゅぎたいする第三だいさん選択肢せんたくしとしてアリストテレスてきとく倫理学りんりがく復興ふっこうした。マッキンタイアMacIntyre美徳びとくなき時代じだい』(1981ねん)、ヌスバウムNussbaumぜんもろさ』(1986ねん)はその代表だいひょうてき成果せいかであり、「いかにきるべきか」を倫理学りんりがく復権ふっけん貢献こうけんした。

影響えいきょう遺産いさん

イスラームIslam哲学てつがく:アリストテレスの著作ちょさく中世ちゅうせいヨーロッパEuropeではそのおおくが直接ちょくせつにはまれなくなったが、アラビアArabia翻訳ほんやくつうじて保存ほぞんされた。イブン・シーナーIbn SīnāアヴィセンナAvicenna)とイブン・ルシュドIbn RushdアヴェロエスAverroes)はアリストテレスの注解ちゅうかいしゃとしてられ、とりわけアヴェロエスは西洋せいようで「注解ちゅうかいしゃ」(ザ・コメンテーターThe Commentator)とばれた。

中世ちゅうせいスコラSchola哲学てつがく:12〜13世紀せいきにアリストテレスの著作ちょさくがラテンふたた翻訳ほんやくされると、ヨーロッパEurope知的ちてき世界せかい革命かくめいきた。トマス・アクィナスThomas Aquinasはアリストテレス哲学てつがくとキリストきょう神学しんがく総合そうごうこころみ、不動ふどう動者どうしゃをキリストきょうかみ同一どういつした。ダンテDanteは『神曲しんきょく』でアリストテレスを「ものたちの」(マエストロ・ディ・コロル・ケ・サンノmaestro di color che sanno)とんだ(『地獄篇じごくへん』IV.131)。

近代きんだい科学かがく革命かくめい:17世紀せいき科学かがく革命かくめいはアリストテレスの自然学しぜんがくへの反発はんぱつからはじまった。ガリレオGalileo落体らくたい法則ほうそくによってアリストテレスの運動うんどうろんくつがえし、ニュートンNewton力学りきがく目的論もくてきろんてき自然しぜんかん機械きかいろんえた。しかし皮肉ひにくなことに、近代きんだい科学かがく方法ほうほうろん観察かんさつ分類ぶんるい因果いんがてき説明せつめい)そのものは、アリストテレスが確立かくりつした枠組わくぐみにふかっている。

生物学せいぶつがく:アリストテレスはレスボスとうで500しゅ以上いじょう動物どうぶつ観察かんさつ記録きろくし、分類ぶんるいがく基礎きそきずいた。ダーウィンDarwinは「リンネLinnéキュヴィエCuvierわたしかみであったが、かれらもアリストテレスにくらべればたんなる生徒せいとにすぎない」と書簡しょかんべている(1882ねんウィリアム・オーグルWilliam Ogleへの書簡しょかん)。

現代げんだいへの接続せつぞく

第一だいいちに、とく倫理学りんりがく復権ふっけん。「なにをすべきか」(義務ぎむろん)や「結果けっかをどう最大さいだいするか」(功利こうり主義しゅぎ)ではなく、「どのような人間にんげんになるべきか」をうアリストテレスてき倫理学りんりがくは、AI倫理りんりやケアの倫理りんり専門せんもんしょく倫理りんりなど現代げんだい応用おうよう倫理学りんりがくでも参照さんしょうされつづけている。

第二だいにに、目的論もくてきろん機能きのう主義しゅぎ生物学せいぶつがくにおいて「心臓しんぞう血液けつえきおくるためにある」とかたることは今日こんにちでも自然しぜんである。機能きのうてき説明せつめい厳密げんみつにはアリストテレスの目的因もくてきいんそのものではないが、構造こうぞうてき類似るいじしている。進化しんか生物学せいぶつがくにおける適応てきおう説明せつめい目的論もくてきろん関係かんけいは、科学かがく哲学てつがくいまなお活発かっぱつ議論ぎろんされている。

第三だいさんに、実践じっせんフロネーシスphronēsis)の重要じゅうようせい。アリストテレスは理論りろんエピステーメーepistēmē)と実践じっせんフロネーシスphronēsis)を区別くべつした。実践じっせんとは「ぜんせい」にかんわる判断はんだんりょく(マニュアルできない、具体ぐたいてき状況じょうきょうおうじた賢慮けんりょ)である。AIの判断はんだんひろがる現代げんだいにおいて、定量ていりょうしにくい実践じっせん概念がいねんはむしろその重要じゅうようせいしている。

読者どくしゃへの

  • 幸福こうふくエウダイモニアeudaimonia)を「とくそくしたたましい活動かつどう」と定義ていぎするアリストテレスの立場たちばは、現代げんだい快楽かいらく主義しゅぎてき幸福こうふくかん欲求よっきゅう充足じゅうそく主観しゅかんてき満足まんぞく)とどううか。あなたにとっての「ぜんせい」とはなにか。
  • アリストテレスの目的論もくてきろん自然しぜん科学かがくから追放ついほうされたが、わたしたちは日常にちじょう生活せいかつつねに「なんのために」とつづけている。目的論もくてきろんてき説明せつめい本当ほんとう不要ふようなのか、それとも人間にんげん理解りかいにとって不可欠ふかけつなのか。
  • とく習慣しゅうかんによって獲得かくとくされるとアリストテレスはいた。しかし現代げんだい社会しゃかい環境かんきょう(SNS、消費しょうひ文化ぶんか情報じょうほう過多かた)のなかで、「よい習慣しゅうかん」を形成けいせいすることはどこまで可能かのうか。

名言めいげん出典しゅってんつき)

"「すべての人間にんげん本性ほんせいることをほっする。」" 出典しゅってん:アリストテレス『形而上学けいじじょうがくメタピュシカMetaphysica)』I.1, 980a21/原文げんぶん:"πάντες ἄνθρωποι τοῦ εἰδέναι ὀρέγονται φύσει"
"「一羽いちわつばめはるをつくるのではなく、一日いちにちもまたそうではない。このようにして、一日いちにちやわずかの時間じかんひと幸福こうふくにするのではない。」" 出典しゅってん:アリストテレス『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがくエーティカ・ニコマケイアĒthika Nikomacheia)』I.7, 1098a18-20/原文げんぶん:"μία γὰρ χελιδὼν ἔαρ οὐ ποιεῖ, οὐδὲ μία ἡμέρα· οὕτω δὲ οὐδὲ μακάριον καὶ εὐδαίμονα μία ἡμέρα οὐδ' ὀλίγος χρόνος"
"「人間にんげん本性ほんせい上ポリスてき動物どうぶつである。」" 出典しゅってん:アリストテレス『政治学せいじがくポリティカPolitica)』I.2, 1253a2-3/原文げんぶん:"ὁ ἄνθρωπος φύσει πολιτικὸν ζῷον"
"「我々われわれかえおこなうことの結果けっかそのものである。ゆえに卓越たくえつ行為こういではなく習慣しゅうかんなのだ。」" 出典しゅってんウィル・デュラントWill Durant哲学てつがく物語ものがたりストーリー・オブ・フィロソフィーThe Story of Philosophy)』(1926ねん)によるアリストテレスAristotelēs趣旨しゅし意訳いやく原典げんてんは『ニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』II.1の議論ぎろんもとづく。厳密げんみつにはアリストテレスの直接ちょくせつ言葉ことばではないが、その思想しそう核心かくしん簡潔かんけつつたえるものとしてひろ引用いんようされる。

参考さんこう文献ぶんけん

  • 原典げんてんAristotleアリストテレス. The Complete Works of Aristotle: The Revised Oxford Translationザ・コンプリート・ワークス・オブ・アリストテレス. Ed. Jonathan Barnesジョナサン・バーンズ. 2 vols. Princetonプリンストン UPユニバーシティ・プレス, 1984.── 英訳えいやく全集ぜんしゅう標準ひょうじゅんばん
  • 概説がいせつShieldsシールズ, Christopherクリストファー. Aristotleアリストテレス. 2nd ed., Routledgeラウトレッジ, 2014.── アリストテレス哲学てつがく包括ほうかつてき入門にゅうもんしょ
  • 研究けんきゅうしょRossロス, W.D. Aristotleアリストテレス. 6th ed., Routledgeラウトレッジ, 1995.── 古典こてんてき概説がいせつしょいまなお有用ゆうよう
  • 邦語ほうご文献ぶんけんいでたかしやく形而上学けいじじょうがく』(岩波文庫いわなみぶんこじょう)── 邦訳ほうやく定番ていばん
  • 邦語ほうご文献ぶんけん高田たかだ三郎さぶろうやくニコマコスNikomachos倫理学りんりがく』(岩波文庫いわなみぶんこじょう)── ひろまれている邦訳ほうやく
  • 研究けんきゅうしょAckrillアクリル, J.L. Aristotle the Philosopherアリストテレス・ザ・フィロソファー. Oxfordオックスフォード UPユニバーシティ・プレス, 1981.── 明快めいかい入門にゅうもんしょ
  • 倫理学りんりがくMacIntyreマッキンタイア, Alasdairアラスデア. After Virtueアフター・ヴァーチュー. 3rd ed., Notre Dameノートルダム UPユニバーシティ・プレス, 2007.── アリストテレスてきとく倫理学りんりがく現代げんだいてき復興ふっこう
  • 倫理学りんりがくNussbaumヌスバウム, Martha C.マーサ・C. The Fragility of Goodnessザ・フラジリティ・オブ・グッドネス. Rev. ed., Cambridgeケンブリッジ UPユニバーシティ・プレス, 2001.── ギリシャGreece悲劇ひげき哲学てつがくにおけるうん倫理りんり関係かんけいろんじた重要じゅうよう研究けんきゅう
  • ウェブwebShieldsシールズ, Christopherクリストファー. "Aristotle." Stanford Encyclopedia of Philosophyスタンフォード・エンサイクロペディア・オブ・フィロソフィー. https://plato.stanford.edu/entries/aristotle/