息いきを吐はいてみてほしい。口くちをすぼめて吹ふけば冷つめたい風かぜが出でる。口くちを大おおきく開あけて「ハァ」と吐はけば温あたたかい息いきが出でる。同おなじ空気くうきなのに、なぜ温度おんどが変かわるのか。紀元前きげんぜん6世紀せいきのミレトスΜίλητοςで、この日常にちじょう的てきな観察かんさつから宇宙うちゅうの根本こんぽん原理げんりを引ひき出だした哲学てつがく者しゃがいた。アナクシメネスἈναξιμένηςである。

師しタレスΘαλῆςは「万物ばんぶつは水みずだ」と言いい、兄弟子あにでしアナクシマンドロスἈναξίμανδροςは「万物ばんぶつは無む限定げんていなもの(ト・アペイロンτὸ ἄπειρον)だ」と言いった。アナクシメネスἈναξιμένηςは再ふたたび具体ぐたい的てきな物質ぶっしつ、空気くうき(アエールἀήρ)に戻もどった。一見いっけんすると後退こうたいに見みえる。だが彼かれの真しんの革新かくしんは、アルケーἀρχήの選択せんたくではなく、変化へんかのメカニズムmechanismを初はじめて明示めいじしたことにある。空気くうきが濃縮のうしゅくすれば風かぜ、雲くも、水みず、土ど、石いしになり、希薄きはく化かすれば火ひになる。たった一ひとつの原理げんりと一ひとつのメカニズムmechanismで、世界せかいの多様たよう性せいを説明せつめいする。この「何なに(What)」から「どのように(How)」への転換てんかんは、2600年ねん後ごの現代げんだい科学かがくの方法ほうほう論ろんそのものである。

この記事きじの要点ようてん

  • メカニズムmechanismの導入どうにゅう:タレスΘαλῆςもアナクシマンドロスἈναξίμανδροςも「根源こんげんは何なにか」に答こたえたが、「根源こんげんからどのように万物ばんぶつが生しょうじるか」を説明せつめいできなかった。アナクシメネスἈναξιμένηςは濃縮のうしゅく(ピュクノーシスπύκνωσις)と希薄きはく化か(マノーシスμάνωσις)という定量ていりょう的てきな変化へんかメカニズムmechanismを初はじめて提示ていじし、この欠落けつらくを埋うめた。
  • 経験けいけん的てき検証けんしょうの萌芽ほうが:息いきの実験じっけん(口くちをすぼめると冷つめたく、開ひらくと温あたたかい)は、理論りろんを日常にちじょう的てきな経験けいけんで裏付うらづけようとする態度たいどの最古さいこの事例じれいのひとつである。仮説かせつと観察かんさつの対応たいおう。つまり科学かがく的てき方法ほうほうの原型げんけいがここにある。
  • 量的りょうてき変化へんかによる質的しつてき変化へんか:空気くうきの「量的りょうてき」な濃淡のうたんの変化へんかが、火ひ・水みず・土どという「質的しつてきに」異ことなる物質ぶっしつを生うむ。この発想はっそうは、現代げんだい物理ぶつり学がくにおける相そう転移てんい(水みずが氷こおりや蒸気じょうきになる)や、情報じょうほう理論りろんにおける量子りょうし化かと構造こうぞう的てきに同型どうけいである。
  • ミレトスΜίλητος学派がくはの完結かんけつ:タレスΘαλῆςが「何なに(Whatワット)」を、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςが「なぜ(Whyワイ)」を、アナクシメネスἈναξιμένηςが「どのように(Howハウ)」を問とうた。三さん世代せだいにわたるこの探究たんきゅうの深化しんかは、あらゆる学問がくもん領域りょういきにおける研究けんきゅうプログラムのプロトタイプprototypeである。

生涯しょうがいと時代じだい背景はいけい

アナクシメネスἈναξιμένηςは紀元前きげんぜん585年ねん頃ごろ、イオニアἸωνία地方ちほうの港湾こうわん都市としミレトスΜίλητοςに生うまれた。テオフラストスΘεόφραστοςの証言しょうげん(シンプリキオスSimplicius経由けいゆ)によれば、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςの「仲間なかま(ἑταῖρος)」であり、伝統でんとう的てきにはミレトスΜίλητος学派がくはの第だい三さん世代せだいに位置いちづけられる(ディオゲネス・ラエルティオスDiogenes Laërtius『列伝Βίοι φιλοσόφων』第だい2巻かん3節せつ)。ただし「弟子でし」という表現ひょうげんはテオフラストスΘεόφραστοςのものであり、厳密げんみつな師弟してい制度せいどを意味いみするのか、同おなじ知的ちてき伝統でんとうに属ぞくする後輩こうはいを指さすのかは確定かくていしがたい。なお、同名どうめいの「ランプサコスΛάμψακοςのアナクシメネスἈναξιμένης」(前ぜん380年ねん頃ごろ〜前ぜん320年ねん頃ごろ)はアレクサンドロス大王だいおうに随行ずいこうした修辞しゅうじ学者がくしゃであり、本ほん記事きじのミレトスΜίλητοςのアナクシメネスἈναξιμένηςとは約やく200年ねん隔へだたった別人べつじんである。古代こだいの文献ぶんけんではときに混同こんどうされるため、注意ちゅういが必要ひつようだ。

アナクシメネスἈναξιμένηςが活動かつどうした前ぜん6世紀せいき後半こうはんのミレトスΜίλητοςは、大おおきな地政学ちせいがく的てき変動へんどうの只ただ中ちゅうにあった。紀元前きげんぜん547/546年ねん、ペルシアのキュロスΚῦρος大王だいおうがリュディアΛυδία王おうクロイソスΚροῖσοςを滅ほろぼし、イオニアἸωνία地方ちほうはペルシア帝国ていこくの支配しはい下かに入はいった。タレスΘαλῆςとアナクシマンドロスἈναξίμανδροςがともに前まえ546年ねん頃ごろに没ぼっしたとされることを考かんがえると、アナクシメネスἈναξιμένηςはミレトスΜίλητοςの知的ちてき黄金おうごん期きの最後さいごの世代せだいに属ぞくする。彼かれの哲学てつがく的てき営いとなみは、ペルシア支配しはいという政治せいじ的てき激変げきへんのさなかで行おこなわれたのである。前ぜん494年ねんのイオニアἸωνία反乱はんらん鎮圧ちんあつでミレトスΜίλητοςは壊滅かいめつ的てきな打撃だげきを受うけ、ミレトスΜίλητος学派がくはの知的ちてき伝統でんとうは事実じじつ上じょう途絶とぜつする。アナクシメネスἈναξιμένηςは、その終焉しゅうえんの直前ちょくぜんに活動かつどうした最後さいごの大だい哲学てつがく者しゃだった。

ミレトスΜίλητοςの交易こうえき都市としとしての性格せいかくは変かわらなかった。エジプトΑἴγυπτος、バビロニアΒαβυλωνία、フェニキアΦοινίκηとの交易こうえきを通つうじて流入りゅうにゅうする知識ちしき(とりわけバビロニアΒαβυλωνίαの天文てんもん観測かんそくデータや気象きしょうに関かんする経験けいけん知ち)は、アナクシメネスἈναξιμένηςの「空気くうき」への注目ちゅうもくに影響えいきょうを与あたえた可能かのう性せいがある。古代こだいメソポタミアでは風かぜの方角ほうがくと気象きしょう変化へんかの観測かんそく記録きろくが蓄積ちくせきされており(エヌマ・アヌ・エンリル文書ぶんしょ群ぐん)、空気くうき・風かぜ・息いきが生命せいめいと深ふかく結むすびつくという観念かんねんは近東きんとうに広ひろく見みられた。ヘブライ語ごの「ルーアハ(רוח)」が「風かぜ」「息いき」「霊れい」の三みっつの意味いみを持もつように、「目めに見みえない気体きたい」と「生命せいめいの原理げんり」を同一どういつ視しする発想はっそうは古代こだい地中海ちちゅうかい世界せかいに広ひろく共有きょうゆうされていた。

アナクシメネスἈναξιμένηςもまた著作ちょさく『自然しぜんについて(ペリ・ピュセオース)』を著あらわしたと伝つたえられる(ディオゲネス・ラエルティオスDiogenes Laërtius『列伝Βίοι φιλοσόφων』第だい2巻かん3節せつ)。同書どうしょによれば、彼かれは「素朴そぼくで簡潔かんけつなイオニアἸωνία方言ほうげん(ἁπλῇ καὶ ἀπερίττῳ Ἰάδι)」で書かいた。ディオゲネスΔιογένηςはこの文体ぶんたい的てき特徴とくちょうをわざわざ記録きろくしており、師しアナクシマンドロスἈναξίμανδροςの(おそらくより晦渋かいじゅうな)散文さんぶんとの対比たいひを意識いしきしていた可能かのう性せいがある。著作ちょさくそのものは散逸さんいつしており、現存げんそんする断片だんぺんはわずか3つ(DK 13 B1, B2, B3)である。ミレトスΜίλητος学派がくはの三さん人にん(タレスΘαλῆς、アナクシマンドロスἈναξίμανδρος、アナクシメネスἈναξιμένης)のなかで、アナクシメネスἈναξιμένηςの人物じんぶつ像ぞうは最もっとも薄うすい。哲学てつがく以外いがいの業績ぎょうせき(タレスΘαλῆςの日食にっしょく予言よげんやオリーブ商売しょうばい、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςの世界せかい地図ちずや植民しょくみん指揮しき)に相当そうとうする逸話いつわは伝つたわっておらず、後世こうせいの人々ひとびとにとって彼かれは「理論りろんの人ひと」として記憶きおくされた。

ミニ年表ねんぴょう

  • 前ぜん585年ねん頃ころ:イオニアἸωνία地方ちほうミレトスΜίλητοςに生うまれる
  • 前ぜん560年代ねんだい:アナクシマンドロスἈναξίμανδροςの影響えいきょう下かで自然しぜん哲学てつがくを研究けんきゅう
  • 前ぜん547/546年ねん:ペルシアによるリュディアΛυδία征服せいふく。イオニアἸωνίαがペルシア帝国ていこくの支配しはい下かに入はいる
  • 前ぜん546年ねん頃ころ:タレスΘαλῆς、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςが没ぼつ。アナクシメネスἈναξιμένηςがミレトスΜίλητος学派がくはを継承けいしょう
  • 前ぜん540〜530年代ねんだい:『自然についてΠερὶ Φύσεως』を著あらわす。空気くうきのアルケーἀρχή説せつと濃縮のうしゅく・希薄きはく化かメカニズムmechanismを体系たいけい化か
  • 前ぜん528/525年ねん頃ころ:ミレトスΜίλητοςにて没ぼつ

アナクシメネスἈναξιμένηςは何なにを問とうたのか

アナクシメネスἈναξιμένηςが直面ちょくめんした問題もんだいは、ミレトスΜίλητος学派がくはの二に人にんの先達せんだつが残のこした「未完みかんの宿題しゅくだい」だった。タレスΘαλῆςは「万物ばんぶつの根源こんげんは水みずだ」と主張しゅちょうしたが、水みずからどのようにして火ひや土どが生しょうじるのか。変化へんかのプロセスprocessを説明せつめいしていない。アナクシマンドロスἈναξίμανδροςは根源こんげんを「無む限定げんていなもの(ト・アペイロンτὸ ἄπειρον)」とすることで、対立たいりつ物ぶつの問題もんだいを回避かいひした。しかし「無む限定げんていなもの」は感覚かんかくで把握はあくできず、そこから具体ぐたい的てきな物質ぶっしつがどうやって生しょうじるのかは依然いぜんとして不明瞭ふめいりょうだった。

つまり、ミレトスΜίλητος学派がくはには二ふたつの欠落けつらくがあった。第だい一いちに、「根源こんげんは何なにか(Whatワット)」には答こたえたが、「どのように変化へんかするか(Howハウ)」に答こたえていない。第だい二にに、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςの「ト・アペイロンτὸ ἄπειρον」は論理ろんり的てきに洗練せんれんされていたが、経験けいけん的てきに把握はあくしにくく、具体ぐたい的てきな説明せつめい力りょくに乏とぼしい。

アナクシメネスἈναξιμένηςの戦略せんりゃくは、この二ふたつの欠落けつらくを同時どうじに埋うめることだった。根源こんげんを再ふたたび具体ぐたい的てきな物質ぶっしつ、空気くうきに戻もどすことで経験けいけん的てきなアクセスを回復かいふくし、同時どうじに「濃縮のうしゅくと希薄きはく化か」という変化へんかの原理げんりを導入どうにゅうすることで、一ひとつの物質ぶっしつからすべての物質ぶっしつが生しょうじるプロセスprocessを説明せつめいする。「何なにであるか」と「どう変かわるか」を一体いったいとして提示ていじした。これがアナクシメネスἈναξιμένηςの革新かくしんだった。

この転換てんかんの意義いぎは大おおきい。現代げんだいの科学かがくにおいて、「何なにであるか」(存在そんざい論ろん)だけでは科学かがく的てき説明せつめいとして不十分ふじゅうぶんであり、「どのようなメカニズムmechanismで変化へんかするか」(プロセスprocessの記述きじゅつ)が不可欠ふかけつである。ダーウィンDarwinの進化しんか論ろんが「自然しぜん選択せんたく」というメカニズムmechanismを示しめしたこと、ニュートンNewtonが「万有引力ばんゆういんりょく」という力学りきがくを定式ていしき化かしたこと。これらはすべて「How」への回答かいとうである。アナクシメネスἈναξιμένηςは、この「How」を哲学てつがくに持もち込こんだ最初さいしょの人物じんぶつなのだ。

核心かくしん理論りろん

1. 空気くうき(アエールἀήρ)── なぜ再ふたたび具体ぐたい的てきな物質ぶっしつに戻もどったのか

アナクシメネスἈναξιμένηςが万物ばんぶつの根源こんげんに選えらんだのは「空気くうき(ἀήρ / アエールἀήρ)」である。ただし、ここで重要じゅうような語義ごぎ上じょうの注意ちゅういがある。古代こだいギリシャ語ごの ἀήρ は、現代げんだい語ごの「空気くうき(エアーair)」(透明とうめいで乾かわいた気体きたい)とは意味いみがかなり異ことなる。ホメロスὍμηροςやヘシオドスἩσίοδοςにおいて ἀήρ は「霧きり」「靄(もや)」「暗くらい水蒸気すいじょうき」を意味いみする語ごであり、透明とうめいな大気たいきは αἰθήρ(アイテールαἰθήρ)と呼よばれた(Kirk & Raven, 1983, pp.144-145)。アナクシメネスἈναξιμένηςの「アエールἀήρ」もまた、われわれが日常にちじょう的てきにイメージする無色むしょく透明とうめいの気体きたいというよりも、目めに見みえないが世界せかいを満みたす、霧きりのような湿しめった気体きたい的てき存在そんざいとして理解りかいすべきである。この理解りかいは、空気くうきが濃縮のうしゅくして「雲くも→水みず」になるというプロセスprocessの自然しぜんさを際立きわだたせる。霧きりが凝結ぎょうけつして雨あめになる過程かていそのものだからだ。

テオフラストスΘεόφραστοςの報告ほうこく(シンプリキオスSimplicius『自然学注解In Aristotelis Physicorum』24.26-25.1)によれば、アナクシメネスἈναξιμένηςは空気くうきを「無限むげん(アペイロン)」であるとしつつ、それを取とり巻まく性質せいしつを「空気くうき」として特定とくていした。つまり、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςの「無む限定げんてい性せい」を完全かんぜんに否定ひていしたわけではなく、無限むげんなるものに具体ぐたい的てきな正体しょうたいを与あたえたのである。

なぜ空気くうきなのか。いくつかの理由りゆうが推測すいそくされる。第だい一いちに、空気くうきは目めに見みえない(あるいは霧きりのように半はん透明とうめいな)がいたるところに存在そんざいする。タレスΘαλῆςの「水みず」のように特定とくていの場所ばしょに限定げんていされず、世界せかい全体ぜんたいを満みたしている。第だい二にに、空気くうきは生命せいめいと直結ちょっけつする。息いき(プネウマπνεῦμα)を止やめれば人ひとは死しぬ。アナクシメネスἈναξιμένηςの現存げんそん断片だんぺんB2はこの類推るいすいを明示めいじする:

"われわれの魂たましいが空気くうきであってわれわれを統御とうぎょしているように、プネウマπνεῦμα(息いき・気き)と空気くうきが全ぜん宇宙うちゅうを包つつみ込こんでいる。" ── アエティオスἈέτιος『学説誌Placita Philosophorum』第だい1巻かん3章しょう4節せつ(DK 13 B2)。ただし、この断片だんぺんのテクストにはいくつかの読よみの異同いどうがあり、「魂たましいが空気くうきである」の部分ぶぶんがアナクシメネスἈναξιμένης自身じしんの表現ひょうげんか後世こうせいの解釈かいしゃくかは議論ぎろんがある。

ここに見みられるのは、ミクロコスモス(人間にんげん=小宇宙しょううちゅう)とマクロコスモス(世界せかい=大だい宇宙うちゅう)の類推るいすいである。人間にんげんの身体しんたいが呼吸こきゅうによって生いかされているように、宇宙うちゅう全体ぜんたいも空気くうきによって生いかされている。この類推るいすいは後ごにプラトンΠλάτων(『ティマイオスΤίμαιος』)やストアΣτοά派はの宇宙うちゅう論ろんに継承けいしょうされ、中世ちゅうせいのネオプラトニズムNeoplatonism、さらにはルネサンスRenaissance期きの自然しぜん哲学てつがくにまで流ながれ込こむ壮大そうだいな知的ちてき系譜けいふの出発しゅっぱつ点てんのひとつである。

第だい三さんに、空気くうきはタレスΘαλῆςの「水みず」に対たいするアナクシマンドロスἈναξίμανδροςの批判ひはん(「対立たいりつ物ぶつの一方いっぽうは根源こんげんたりえない」)をある程度ていど回避かいひできる。空気くうきは冷つめたくも温あたたかくもなりうる「中間ちゅうかん的てき」な性質せいしつを持もち、水みずと火ひのどちらか一方いっぽうに固定こていされない。アナクシメネスἈναξιμένηςの選択せんたくは、具体ぐたい性せいとアペイロンの無む限定げんてい性せいの間まの折衷せっちゅう案あんだった。

2. 濃縮のうしゅく(ピュクノーシスπύκνωσις)と希薄きはく化か(マノーシスμάνωσις)── 最初さいしょの変化へんかのメカニズムmechanism

アナクシメネスἈναξιμένηςの最大さいだいの革新かくしんは、空気くうきという一ひとつの物質ぶっしつから万物ばんぶつが生しょうじるメカニズムmechanismを明示めいじしたことにある。そのメカニズムmechanismとは「濃縮のうしゅく(πύκνωσις / ピュクノーシスπύκνωσις)」と「希薄きはく化か(μάνωσις / マノーシスμάνωσις)」である(テオフラストスΘεόφραστος、シンプリキオスSimplicius『自然学注解In Aristotelis Physicorum』24.26-25.1; 擬プルタルコスΠλούταρχος『ストロマテイスΣτρωματεῖς』第だい3章しょう)。

空気くうきが希薄きはく化かすると、より熱あつく軽かるくなり、やがて火ひになる。逆ぎゃくに空気くうきが濃縮のうしゅくすると、まず風かぜが生しょうじ、さらに濃縮のうしゅくして雲くも、水みず、土ど、石いしになる。つまり、空気くうきの密度みつどが変かわるだけで(それ以外いがいの原理げんりを追加ついかすることなく)宇宙うちゅうのすべての物質ぶっしつが説明せつめいされる:

火ひ ← 希薄きはく化か ← 空気くうき → 濃縮のうしゅく → 風かぜ → 雲くも → 水みず → 土ど → 石いし

なお、アエティオスἈέτιος(『学説誌Placita Philosophorum』第だい1巻かん3章しょう4節せつ)の証言しょうげんでは、この濃縮のうしゅくのプロセスprocessを表あらわす語ごとしてπίλησις(ピレーシスπίλησις)が用もちいられている。これは羊毛ようもうを圧縮あっしゅくしてフェルトπῖλοςを作つくる「縮ちぢみ絨(しゅくじゅう)」の工程こうていに由来ゆらいする比喩ひゆであり、繊維せんいを押おし固かためて別べつの質感しつかんの物質ぶっしつに変かえる日常にちじょう技術ぎじゅつからの着想ちゃくそうである。ミレトスΜίλητοςは古代こだい世界せかい有数ゆうすうの羊毛ようもう産業さんぎょう都市としでもあり、アナクシメネスἈναξιμένηςがこの比喩ひゆを選えらんだことには、地場じば産業さんぎょうの経験けいけん知ちが反映はんえいされている可能かのう性せいがある。

この理論りろんの革新かくしん性せいは三みっつある。

第だい一いちに、連続れんぞく的てきな変化へんかである。火ひから石いしまで、物質ぶっしつの種類しゅるいは断絶だんぜつなく連続れんぞくしている。種類しゅるいの違ちがいは本質ほんしつの違ちがいではなく、密度みつどの「程度ていど」の違ちがいにすぎない。これは現代げんだい物理ぶつり学がくにおける相そう転移てんい(水みずが温度おんどによって氷こおり・液体えきたい・蒸気じょうきに変かわる)の直観ちょっかん的てきな先取さきどりである。

第だい二にに、定量ていりょう性せいの萌芽ほうがである。「濃こい/薄うすい」という変化へんかは、原理げんり的てきに「どのくらい濃こいか/薄うすいか」という量的りょうてきな問といに開ひらかれている。アナクシメネスἈναξιμένης自身じしんが数値すうち的てきな定量ていりょう化かを行おこなったわけではないが、変化へんかを質的しつてきな飛躍ひやくではなく量的りょうてきな連続れんぞくとして捉とらえる態度たいどは、後のちのピュタゴラスΠυθαγόρας学派がくはの数学すうがく的てき自然しぜん観かんや、近代きんだい科学かがくの定量ていりょう的てき方法ほうほう論ろんの遠とおい源流げんりゅうである。

第だい三さんに、メカニズムmechanismの一元いちげん性せいである。濃縮のうしゅくと希薄きはく化かという「たった一ひとつの変化へんかの原理げんり」で万物ばんぶつの多様たよう性せいを説明せつめいする。複数ふくすうの原理げんりや複数ふくすうの力ちからを導入どうにゅうしない。この理論りろん的てき節約せつやく(オッカムOccamの剃刀かみそりの精神せいしん)は、科学かがく理論りろんの美徳びとくの核心かくしんである。

3. 息いきの実験じっけん── 経験けいけん的てき検証けんしょうの最古さいこの試こころみ

アナクシメネスἈναξιμένηςは自説じせつを裏付うらづけるために、驚おどろくべき「実験じっけん」を提示ていじした。現存げんそん断片だんぺんB1(擬プルタルコスΠλούταρχος『ストロマテイスΣτρωματεῖς』第だい3章しょう)に伝つたえられるこのエピソードは、科学かがく史上しじょう最もっとも古ふるい経験けいけん的てき検証けんしょうの試こころみのひとつとして知しられる。

口くちをすぼめて息いきを吹ふくと、出でてくる空気くうきは冷つめたい。口くちを大おおきく開あけて「ハァ」と息いきを吐はくと、出でてくる空気くうきは温あたたかい。アナクシメネスἈναξιμένηςはこの日常にちじょう的てきな観察かんさつを次つぎのように解釈かいしゃくした。口くちをすぼめて吹ふくとき、空気くうきは圧縮あっしゅくされて(濃縮のうしゅくされて)冷つめたくなる。口くちを開ひらいて吐はくとき、空気くうきは広ひろがって(希薄きはく化かして)温あたたかくなる。これは自説じせつ(濃縮のうしゅくは冷却れいきゃくを生うみ、希薄きはく化かは加熱かねつを生うむ)の経験けいけん的てき証拠しょうこだ、と。

現代げんだいの物理ぶつり学がくの視点してんから見みると、この説明せつめいは実じつは誤あやまっている。口くちをすぼめて吹ふくと冷つめたいのは、空気くうきの流速りゅうそくが上あがることで周囲しゅういの空気くうきを巻まき込こみ(エントレインメントentrainment効果こうか)、体温たいおんより低ひくい室温しつおんの空気くうきが混合こんごうするためであり、断熱だんねつ膨張ぼうちょうや圧縮あっしゅくの効果こうかではない。「ハァ」と吐はくと温あたたかいのは、低速ていそくで吐はき出だされた息いきが体温たいおんに近ちかいままだからである。

しかし、結論けつろんの正誤せいごよりも方法ほうほうの意義いぎが重要じゅうようだ。アナクシメネスἈναξιμένηςは、宇宙うちゅう論ろん的てきな理論りろんを日常にちじょうの身体しんたい的てき経験けいけんで検証けんしょうしようとした。「理論りろんが正ただしいなら、こういう現象げんしょうが観察かんさつされるはずだ」。この仮説かせつ演繹えんえき的てきな推論すいろんの構造こうぞうは、フランシス・ベーコンやガリレオGalileoが2000年ねん以上いじょう後ごに定式ていしき化かする科学かがく的てき方法ほうほうの原型げんけいである。結果けっかは間違まちがっていたが、アプローチは正ただしかった。

4. 宇宙うちゅう論ろん── 平たいらな大地だいちと空気くうきの宇宙うちゅう

アナクシメネスἈναξιμένηςの宇宙うちゅう論ろんは、空気くうきのアルケーἀρχή説せつの自然しぜんな帰結きけつとして構成こうせいされている。ヒッポリュトスἹππόλυτος(『全異端反駁Refutatio Omnium Haeresium』第だい1巻かん7章しょう)やアエティオスἈέτιος(『学説誌Placita Philosophorum』第だい2-3巻かんの各かく節せつ)の証言しょうげんによれば、大地だいちは平たいらな円盤えんばん状じょうであり、空気くうきの上うえに浮うかんでいる。ちょうど木この葉はが風かぜに支ささえられるように。アナクシマンドロスἈναξίμανδροςの「等距離とうきょりによる静止せいし」という洗練せんれんされた議論ぎろんと比較ひかくすると、やや素朴そぼくな説明せつめいに後退こうたいしているようにも見みえる。

天体てんたいについてもアナクシメネスἈναξιμένηςは独自どくじの見解けんかいを持もっていた。星々は地球ちきゅうから最もっとも遠とおいのではなく、火ひのようなものが空気くうき中ちゅうに張はり付ついた「鋲びょう(びょう)」のようなものであるとされた(アエティオスἈέτιος『学説誌Placita Philosophorum』第だい2巻かん14章しょう3-4節せつ)。太陽たいようは平たいらで、大地だいちの周囲しゅういを(大地だいちの下したを通過つうかするのではなく)帽子ぼうしのように頭あたまの周まわりを回まわるように運動うんどうするとした。夜よるになるのは太陽たいようが大地だいちの下したに沈しずむのではなく、大地だいちの高たかい部分ぶぶんに隠かくされるためだ、と。

この宇宙うちゅう論ろんはアナクシマンドロスἈναξίμανδροςの同心円どうしんえんモデルと比くらべて後退こうたいに見みえるかもしれない。しかし、すべてを「空気くうきとその濃淡のうたん」で一貫いっかんして説明せつめいしようとする理論りろん的てき一貫いっかん性せいは評価ひょうかに値あたいする。大地だいちが浮うくのも、天体てんたいが輝かがやくのも、雲くもや雨あめが生しょうじるのも、すべて空気くうきの振ふる舞まいとして統一とういつ的てきに説明せつめいされるのだ。

とりわけ注目ちゅうもくすべきは、アナクシメネスἈναξιμένηςが気象きしょう現象げんしょうを体系たいけい的てきに説明せつめいした点てんである。アエティオスἈέτιος(『学説誌Placita Philosophorum』第だい3巻かん)やヒッポリュトスἹππόλυτος(『全異端反駁Refutatio Omnium Haeresium』第だい1巻かん7章しょう)の証言しょうげんによれば、彼かれは以下いかのように論ろんじた。雨あめは空気くうきが濃縮のうしゅくして雲くもになり、さらに圧縮あっしゅくされて水みずとして落下らっかする現象げんしょうである。濃縮のうしゅくがさらに進すすむと雹(ひょう)になり、雪ゆきは水みずに空気くうき(風かぜ)が混まじって凝固ぎょうこしたものである。虹にじは太陽光たいようこうが濃密のうみつな雲くもに当あたって生しょうじる。地震じしんは大地だいちが過度かどに乾燥かんそうし亀裂きれつが入はいるか、逆ぎゃくに過度かどに湿潤しつじゅんになって崩壊ほうかいすることで起おきる。いずれも空気くうき中ちゅうの水分すいぶんの濃縮のうしゅく・希薄きはく化かに帰着きちゃくする。雷かみなりと稲妻いなづまは風かぜが雲くもを引ひき裂さくときに生しょうじるとした。これらの説明せつめいは個々ここに見みれば不正確ふせいかくだが、すべてを「空気くうきの密度みつど変化へんか」という単一たんいつの原理げんりで統一とういつ的てきに導出どうしゅつしようとした点てんこそが革新かくしん的てきである。個別こべつ現象げんしょうごとに別々べつべつの神かみを持もち出だす神話しんわ的てき説明せつめいとは、根本こんぽん的てきに異ことなる知的ちてき態度たいどだ。

5. 魂たましいと宇宙うちゅうの同型どうけい性せい── マクロコスモスとミクロコスモス

断片だんぺんB2で示しめされる「魂たましい=空気くうき、宇宙うちゅう=空気くうき」という等式とうしきは、単たんなる比喩ひゆ以上いじょうの理論りろん的てき射程しゃていを持もつ。人間にんげんの生命せいめいを維持いじする原理げんり(呼吸こきゅう=空気くうき)と、宇宙うちゅうを維持いじする原理げんり(アルケーἀρχή=空気くうき)が同一どういつの物質ぶっしつであるならば、人間にんげんを理解りかいすることは宇宙うちゅうを理解りかいすることに直結ちょっけつし、その逆ぎゃくもまた然しかりである。

このマクロコスモス=ミクロコスモスの発想はっそうは、西洋せいよう思想しそう史しで繰くり返かえし回帰かいきする強力きょうりょくなモチーフとなった。プラトンΠλάτωνの『ティマイオスΤίμαιος』は宇宙うちゅうを「大おおきな生物せいぶつ」として描えがき、ストアΣτοά派ははプネウマπνεῦμα(気息きそく)を宇宙うちゅうの統御とうぎょ原理げんりとした。ルネサンスRenaissanceのパラケルススParacelsusは人体じんたいを宇宙うちゅうの縮図しゅくずとして医学いがくを構想こうそうし、20世紀せいきのジェームズ・ラヴロックLovelockは地球ちきゅう全体ぜんたいを自己じこ調節ちょうせつ的てきなシステム(ガイアΓαῖα仮説かせつ)として理論りろん化かした。

現代げんだいのフラクタルfractal理論りろん(部分ぶぶんと全体ぜんたいが自己じこ相似そうじ的てきな構造こうぞうを持もつ)もまた、スケールの異ことなる世界せかいが同型どうけいの構造こうぞうを共有きょうゆうするという直観ちょっかんを数学すうがく的てきに表現ひょうげんしたものである。アナクシメネスἈναξιμένηςの魂たましい=空気くうきの等式とうしきは、この壮大そうだいな系譜けいふの出発しゅっぱつ点てんのひとつだ。

主要しゅよう著作ちょさくガイド

アナクシメネスἈναξιμένηςの著作ちょさくは散逸さんいつしており、現存げんそんするのはわずか3断片だんぺん(DK 13 B1, B2, B3)のみである。以下いかは彼かれの思想しそうを復元ふくげんするための文献ぶんけんガイドである。

  • ディオゲネス・ラエルティオスDiogenes Laërtius『ギリシア哲学者列伝Βίοι φιλοσόφων』第だい2巻かん3節せつ(加来かく彰俊あきとし訳やく、岩波いわなみ文庫ぶんこ) ── アナクシメネスἈναξιμένηςの生涯しょうがいと業績ぎょうせきの簡潔かんけつな伝記でんき的てき概要がいよう。ミレトスΜίλητος学派がくは三さん代だいの関係かんけいを理解りかいする出発しゅっぱつ点てん。
  • 廣川ひろかわ洋一よういち『ソクラテス以前の哲学者The Presocratic Philosophers』(講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、1997年ねん) ── ミレトスΜίλητος学派がくは全体ぜんたいを日本語にほんごで平易へいいに概説がいせつする。タレスΘαλῆς→アナクシマンドロスἈναξίμανδρος→アナクシメネスἈναξιμένηςの思想しそう的てき展開てんかいが明快めいかいに整理せいりされている。
  • アリストテレスἈριστοτέλης『形而上学Τὰ μετὰ τὰ φυσικά』第だい1巻かん984a(出隆いでたかし訳やく、岩波いわなみ文庫ぶんこ) ── アリストテレスἈριστοτέληςが初期しょき自然しぜん哲学てつがく者しゃのアルケーἀρχή論ろんを体系たいけい的てきに分析ぶんせきする。アナクシメネスἈναξιμένηςへの言及げんきゅうを含ふくむ。
  • G.S. Kirkカーク, J.E. Ravenレイヴン, M. Schofieldスコフィールド『The Presocratic Philosophersソクラテス以前の哲学者たち』2nd ed., Cambridge UP, 1983, Ch.5(邦訳ほうやく:内山うちやま勝利かつとし他た訳やく『ソクラテス以前の哲学者たちThe Presocratic Philosophers』京都大きょうとだい学がく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい) ── アナクシメネスἈναξιμένηςの全ぜん断片だんぺん・全ぜん証言しょうげんを原典げんてん批判ひはん的てきに検討けんとうする。濃縮のうしゅく・希薄きはく化かメカニズムmechanismの解釈かいしゃく問題もんだいについて最もっとも詳細しょうさいな議論ぎろんを提供ていきょうする。
  • D.W. Grahamグラハム『Explaining the Cosmos: The Ionian Tradition of Scientific Philosophy宇宙を説明する:イオニアの科学哲学の伝統』, Princeton UP, 2006, Ch.3 ── ミレトスΜίλητος学派がくはの科学かがく的てき思考しこうを再さい評価ひょうかする近年きんねんの重要じゅうよう著作ちょさく。アナクシメネスἈναξιμένηςの方法ほうほう論ろん的てき革新かくしんに焦点しょうてんを当あてる。

主要しゅような批判ひはんと論争ろんそう

1. ヘラクレイトスἩράκλειτοςの批判ひはん(同どう時代じだい・後続こうぞく):エフェソスἜφεσοςのヘラクレイトスἩράκλειτοςは、ミレトスΜίλητος学派がくはが「一ひとつの根源こんげん物質ぶっしつ」を特定とくていしようとする営いとなみ全体ぜんたいに懐疑かいぎ的てきだったと見みなされることがある。彼かれにとって重要じゅうようなのは物質ぶっしつの正体しょうたいではなく、対立たいりつと変化へんかの永続えいぞく的てきなプロセスprocessそのものだった。「火ひ」をアルケーἀρχήに据すえたとされるヘラクレイトスἩράκλειτοςだが、彼かれの火ひは物質ぶっしつというよりも変化へんかの象徴しょうちょうであり、アナクシメネスἈναξιμένηςの「空気くうき」とは異ことなる次元じげんの議論ぎろんである。

2. アリストテレスἈριστοτέληςの評価ひょうかと限界げんかい指摘してき(後世こうせい):アリストテレスἈριστοτέληςはアナクシメネスἈναξιμένηςの濃縮のうしゅく・希薄きはく化か理論りろんを「対立たいりつする性質せいしつによる変化へんか」として理解りかいし(『自然学Φυσική』第だい1巻かん4章しょう187a12-23)、自身じしんの質料しつりょう変化へんか論ろんの先駆せんくとして一定いっていの評価ひょうかを与あたえている。また『形而上学Τὰ μετὰ τὰ φυσικά』第だい1巻かん3章しょう(984a5)では、アナクシメネスἈναξιμένηςを「空気くうきを万物ばんぶつの根源こんげんとした」哲学てつがく者しゃとして明確めいかくに言及げんきゅうする。しかし同時どうじに、アナクシメネスἈναξιμένηςが「空気くうきはなぜ変化へんかするのか」──変化へんかの作用さよう因いん──を説明せつめいしていない点てんを批判ひはんする。空気くうきは濃縮のうしゅくし希薄きはく化かするが、その変化へんかを引ひき起おこす力ちからは何なになのか。アナクシメネスἈναξιμένηςは空気くうきに「永遠えいえんの運動うんどう」が内在ないざいすると暗黙あんもくに前提ぜんていしたが、それは論証ろんしょうなき仮定かていだ、とアリストテレスἈριστοτέληςは見みなす。

ただし、この批判ひはんはアリストテレスἈριστοτέλης自身じしんの「四よん原因げんいん説せつ」(とりわけ動力どうりょく因いんと目的もくてき因いんの要求ようきゅう)を基準きじゅんとしている。アナクシメネスἈναξιμένηςの議論ぎろんを公正こうせいに評価ひょうかしているかどうかには、疑問ぎもんの余地よちがある。

3. 現代げんだいの解釈かいしゃく論争ろんそう:アナクシメネスἈναξιμένηςの理論りろんは「後退こうたい」か「前進ぜんしん」かをめぐって、研究けんきゅう者しゃの評価ひょうかが分わかれている。(a)バーネットBurnet(1892)やガスリーGuthrie(1962)は、具体ぐたい的てきな物質ぶっしつに戻もどったことをアナクシマンドロスἈναξίμανδροςの抽象ちゅうしょう的てき思考しこうからの「後退こうたい」と見みなした。(b)一方いっぽう、カークKirk&レイヴンRaven(1983)やグラハムGraham(2006)は、メカニズムmechanismの導入どうにゅうを重視じゅうしし、これを科学かがく的てき方法ほうほう論ろんにおける「前進ぜんしん」と評価ひょうかする。(c)近年きんねんでは、ルイスLewis(2009)のように、アナクシメネスἈναξιμένηςの理論りろんを「初期しょきギリシャの物質ぶっしつ理論りろん」全体ぜんたいの文脈ぶんみゃくに位置いちづけ、後退こうたい/前進ぜんしんという二に項こう対立たいりつを超こえた再さい評価ひょうかを試こころみる研究けんきゅうもある。

影響えいきょうと遺産いさん

先行せんこう思想しそう:タレスΘαλῆςのアルケーἀρχή探究たんきゅう(「何なにか」を問とう枠組わくぐみ)、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςのト・アペイロンτὸ ἄπειρον(無む限定げんてい性せいと対立たいりつ物ぶつの分離ぶんりという発想はっそう)、バビロニアの気象きしょう観測かんそく記録きろく(風かぜと天候てんこうの経験けいけん的てき知識ちしき)。アナクシメネスἈναξιμένηςは先行せんこうする二に人にんの問といと回答かいとうを批判ひはん的てきに統合とうごうした。

直接的ちょくせつてき後継こうけい者しゃ:ディオゲネスΔιογένης・オブ・アポロニア(前ぜん5世紀せいき後半こうはん)は、アナクシメネスἈναξιμένηςの空気くうき=アルケーἀρχή説せつを明示めいじ的てきに継承けいしょうし、空気くうきに「知性ちせい(ノエーシスνόησις)」を付与ふよすることでアナクサゴラスἈναξαγόραςのヌースνοῦς(知性ちせい)との折衷せっちゅうを試こころみた。シンプリキオスSimplicius(『自然学注解In Aristotelis Physicorum』151.31)はディオゲネスΔιογένηςを「ほぼアナクシメネスἈναξιμένηςの模倣もほう者しゃ」と評ひょうしている。アリストファネスἈριστοφάνηςの喜劇きげき『雲Νεφέλαι』(前ぜん423年ねん初演しょえん)でソクラテスΣωκράτηςが「空気くうき」や「渦うず」を崇あがめているように描えがかれるのは、当時とうじアテナイἈθῆναιで知しられていたディオゲネスΔιογένηςの学説がくせつを戯画ぎが化かしたものと考かんがえられている。つまり、アナクシメネスἈναξιμένηςの思想しそうは、直弟子じきでしを介かいしてアテナイἈθῆναιの大衆たいしゅう文化ぶんかにまで浸透しんとうしていたのである。

エンペドクレスἘμπεδοκλῆςと多元たげん論ろんへの橋渡はしわたし:アナクシメネスἈναξιμένηςの「一ひとつの物質ぶっしつから多おおくの物質ぶっしつが生しょうじる」モデルは、後のちのエンペドクレスἘμπεδοκλῆς(前ぜん5世紀せいき)が提出ていしゅつした「四よん元素げんそ説せつ」(土ど・水みず・空気くうき・火ひ)の前提ぜんてい条件じょうけんを整ととのえた。エンペドクレスἘμπεδοκλῆςは一元論いちげんろんを放棄ほうきして多元たげん論ろんに移行いこうしたが、その「空気くうき」「水みず」「火ひ」「土ど」という元素げんそのリストは、アナクシメネスἈναξιμένηςが濃縮のうしゅく・希薄きはく化かのスペクトルspectrum上じょうに並ならべた物質ぶっしつをそのまま独立どくりつの根源こんげんに昇格しょうかくさせたものと見みることができる。

ストアΣτοά派はへの影響えいきょう:ストアΣτοά派は(前ぜん3世紀せいき〜)は「プネウマπνεῦμα(気息きそく)」を宇宙うちゅうの統御とうぎょ原理げんりとする理論りろんを展開てんかいした。プネウマπνεῦμαは「火ひと空気くうきの混合こんごう物ぶつ」であり、宇宙うちゅう全体ぜんたいに浸透しんとうして張力ちょうりょく(トノスτόνος)と統一とういつ性せいを与あたえるとされた。クリュシッポスΧρύσιππος(前ぜん3世紀せいき)のプネウマπνεῦμα論ろんにおける「膨張ぼうちょうと収縮しゅうしゅく」の二に運動うんどうは、アナクシメネスἈναξιμένηςの「希薄きはく化かと濃縮のうしゅく」と驚おどろくべき構造こうぞう的てき類似るいじを示しめす。アナクシメネスἈναξιμένηςの「魂たましい=空気くうき」「宇宙うちゅう=空気くうき」の等式とうしきがストアΣτοά派はのプネウマπνεῦμα論ろんへ直接ちょくせつ流入りゅうにゅうしたかどうかは議論ぎろんがあるが、ポセイドニオスΠοσειδώνιος(前ぜん1世紀せいき)やセネカSeneca(後ご1世紀せいき)を通つうじた間接かんせつ的てきな影響えいきょうは広ひろく認みとめられている。

科学かがく史しへの波及はきゅう:濃縮のうしゅくと希薄きはく化かというメカニズムmechanismの発想はっそうは、近代きんだい化学かがくの「気体きたいの状態じょうたい方程式ほうていしき」(ボイルの法則ほうそく:圧力あつりょくと体積たいせきの反比例はんぴれい関係かんけい、1662年ねん)や、物理ぶつり学がくの相そう転移てんい理論りろんと構造こうぞう的てきに対応たいおうする。「一ひとつの物質ぶっしつが密度みつどの変化へんかによって異ことなる状態じょうたいを示しめす」というモデルは、アナクシメネスἈναξιμένηςが2600年ねん前まえに提示ていじし、現代げんだいの科学かがくがようやく精密せいみつに定式ていしき化かしたものである。

ミレトスΜίλητος学派がくはの完結かんけつ──三さん人にんの遺産いさん

アナクシメネスἈναξιμένηςの死しとともに、ミレトスΜίλητος学派がくはの約やく80年ねんにわたる知的ちてき伝統でんとうは幕まくを閉とじた。三さん人にんが遺のこした問といと方法ほうほうを整理せいりすれば、彼かれらの共同きょうどう作業さぎょうの全貌ぜんぼうが浮うかび上あがる。タレスΘαλῆςが「何なにであるか(Whatワット)」を問とい、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςが「なぜそうでなければならないか(Whyワイ)」を問とい、アナクシメネスἈναξιμένηςが「どのように変化へんかするか(Howハウ)」を問とうた。What → Why → How──この三さん段階だんかいの深化しんかは、あらゆる学問がくもん領域りょういきにおける探究たんきゅうのプロトタイプprototypeである。

ミレトスΜίλητος学派がくはは、神話しんわ的てき説明せつめいに代かわる自然しぜん主義しゅぎ的てき・合理ごうり的てきな世界せかい説明せつめいの枠組わくぐみを確立かくりつした。彼かれら以降いこう、ギリシャ哲学てつがくは「万物ばんぶつの根源こんげんは何なにか」という問といをめぐって爆発ばくはつ的てきに展開てんかいする。ヘラクレイトスἩράκλειτοςの火ひ、ピュタゴラスΠυθαγόραςの数かず、パルメニデスΠαρμενίδηςの存在そんざい、エンペドクレスἘμπεδοκλῆςの四よん元素げんそ、アナクサゴラスἈναξαγόραςのヌースνοῦς、そしてデモクリトスΔημόκριτοςの原子げんし。この壮大そうだいな知的ちてき競争きょうそうのすべてが、ミレトスΜίλητοςの三さん人にんが切きり拓ひらいた問といの地平ちへいの上うえに成なり立たっている。

現代げんだいへの接続せつぞく

アナクシメネスἈναξιμένηςの遺産いさんは二ふたつの次元じげんで現代げんだいに生いきている。

第だい一いちに、「メカニズムmechanismの要求ようきゅう」。現代げんだい科学かがくにおいて「何なにであるか」を示しめすだけでは不十分ふじゅうぶんであり、「どのようにしてそうなるか」を説明せつめいするメカニズムmechanismが求もとめられる。ダーウィンDarwinが進化しんかの「事実じじつ」だけでなく「自然しぜん選択せんたく」というメカニズムmechanismを提示ていじしたこと、ワトソンとクリックがDNAの「構造こうぞう」だけでなく「複製ふくせいの仕組しくみ」を明あきらかにしたこと。科学かがくの進歩しんぽは常つねに「How」の深化しんかである。アナクシメネスἈναξιμένηςが2600年ねん前まえにこの要求ようきゅうを最初さいしょに満みたした。

第だい二にに、「量的りょうてき変化へんかが質的しつてき変化へんかを生うむ」という発想はっそう。水みずが0℃で氷こおりになり、100℃で蒸気じょうきになる。同おなじH2O分子ぶんしが、温度おんどという「量的りょうてき」パラメータの変化へんかによって「質的しつてきに」まったく異ことなる姿すがたを取とる。マルクスMarxが『資本論Das Kapital』で展開てんかいした「量りょうから質しつへの転化てんか」(ヘーゲルHegel弁証法べんしょうほう由来ゆらい)、臨界りんかい質量しつりょうを超こえると連鎖れんさ反応はんのうが始はじまる核かく物理ぶつり学がく、ある閾しきい値ちを超こえると系けい全体ぜんたいの振ふる舞まいが一変いっぺんする生態せいたい学がくの「転換てんかん点てん」。これらすべてに、アナクシメネスἈναξιμένηςの直観ちょっかんが木霊こだましている。「もっと多おおく」が「まったく別べつのもの」になる。この驚おどろくべき原理げんりを、最初さいしょに明示めいじ的てきに示しめしたのがアナクシメネスἈναξιμένηςの濃縮のうしゅく・希薄きはく化か理論りろんなのである。

第だい三さんに、「一元いちげん的てき還元かんげん主義しゅぎ」の原型げんけいとしての意義いぎがある。現代げんだい物理ぶつり学がくが目指めざす「万物ばんぶつの理論りろん(セオリー・オブ・エブリシングTheory of Everything)」、つまり重力じゅうりょく・電磁でんじ力りょく・強つよい力ちから・弱よわい力ちからのすべてを一ひとつの枠組わくぐみで記述きじゅつするものは、「世界せかいの多様たよう性せいをたった一ひとつの原理げんりに還元かんげんする」というアナクシメネスἈναξιμένηςの知的ちてき衝動しょうどうと同おなじ構造こうぞうを持もつ。もちろん、現代げんだい物理ぶつり学がくの数学すうがく的てき洗練せんれんとアナクシメネスἈναξιμένηςの素朴そぼくな空気くうき一元論いちげんろんは比較ひかくにならない。

だが、「世界せかいは見みかけほど複雑ふくざつではないはずだ」「背後はいごに単純たんじゅんな統一とういつ原理げんりがあるはずだ」という信念しんねん。この科学かがくを駆動くどうする最もっとも深ふかい動機どうきを最初さいしょに明示めいじしたのが、ミレトスΜίλητοςの三さん人にんであり、とりわけ「一ひとつの物質ぶっしつ+一ひとつのメカニズムmechanism」で完結かんけつする体系たいけいを示しめしたアナクシメネスἈναξιμένηςなのである。

読者どくしゃへの問とい

  • あなたの専門せんもん分野ぶんやで、「何なにであるか」は分わかっているが「どのようにしてそうなるか」がまだ解明かいめいされていない問題もんだいは何なにか。アナクシメネスἈναξιμένηςの態度たいどに倣ならって、「How」を問とい直なおしてみよ。
  • 量的りょうてきな変化へんかが質的しつてきな変化へんかを引ひき起おこした経験けいけん(たとえば練習れんしゅうの蓄積ちくせきがある日ひ突然とつぜん「できる」に変かわった経験けいけん)はあるか。それは「濃縮のうしゅくと希薄きはく化か」のアナロジーanalogyでどう説明せつめいできるか。
  • アナクシメネスἈναξιμένηςの息いきの実験じっけんは、結論けつろんは誤あやまりだがアプローチは正ただしかった。科学かがく史しを見みれば、正ただしい方法ほうほう論ろんから間違まちがった結論けつろんが生うまれ、それが修正しゅうせいされて真理しんりに近ちかづくケースは無数むすうにある。あなた自身じしんの仕事しごとや学まなびのなかで、「方法ほうほうは正ただしかったが結論けつろんは間違まちがっていた」経験けいけんはあるか。その経験けいけんから何なにを学まなんだか。
  • タレスΘαλῆςは「何なにであるか」を、アナクシマンドロスἈναξίμανδροςは「なぜそうでなければならないか」を、アナクシメネスἈναξιμένηςは「どのように変化へんかするか」を問とうた。あなたが今こん直面ちょくめんしている問題もんだいは、What・Why・Howのどの段階だんかいにあるか。次つぎに問とうべきは何なにか。

名言めいげん(出典しゅってんつき)

"われわれの魂たましいが空気くうきであってわれわれを統御とうぎょしているように、プネウマπνεῦμαと空気くうきが全ぜん宇宙うちゅうを包つつみ込こんでいる。" ── アエティオスἈέτιος『学説誌Placita Philosophorum』第だい1巻かん3章しょう4節せつ(DK 13 B2)。マクロコスモスとミクロコスモスの同型どうけい性せいを端的たんてきに表あらわす、アナクシメネスἈναξιμένηςの最もっとも重要じゅうような断片だんぺん。
"空気くうきが濃縮のうしゅくされると、まず風かぜが生うまれ、さらに雲くもが生しょうじ、さらに濃こくなると水みず、さらには土ど、そして石いしとなる。逆ぎゃくに希薄きはく化かすると火ひになる。" ── テオフラストスΘεόφραστος(シンプリキオスSimplicius『自然学注解In Aristotelis Physicorum』24.26-25.1 経由けいゆ)。DK 13 A5。濃縮のうしゅくと希薄きはく化かのメカニズムmechanismを記述きじゅつする最もっとも体系たいけい的てきな証言しょうげん。
"空気くうきは無限むげんであり、万物ばんぶつがそこから生成せいせいし、そこへ消滅しょうめつする。" ── テオフラストスΘεόφραστος(シンプリキオスSimplicius『自然学注解In Aristotelis Physicorum』24.26 経由けいゆ)。DK 13 A5。アナクシメネスἈναξιμένηςのアルケーἀρχή論ろんの根幹こんかんを伝つたえる証言しょうげん。空気くうきにアナクシマンドロスἈναξίμανδροςの「無限むげん」の属性ぞくせいを統合とうごうしている。

参考さんこう文献ぶんけん

  • (断片だんぺんと証言しょうげん):H. Dielsディールス & W. Kranzクランツ 編へん『ソクラテスΣωκράτης以前いぜんの哲学てつがく者しゃたちの断片だんぺん(Die Fragmente der Vorsokratikerディー・フラグメンテ・デア・フォアゾクラティカー)』第だい1巻かん、アナクシメネスἈναξιμένηςの章しょう(DK 13)。断片だんぺんB1-B3および全ぜん証言しょうげん(A篇へん)を収録しゅうろく。
  • (証言しょうげん):アリストテレスἈριστοτέλης『形而上学Τὰ μετὰ τὰ φυσικά』第だい1巻かん(出隆いでたかし訳やく、岩波いわなみ文庫ぶんこ)──984a5前後ぜんごでアナクシメネスἈναξιμένηςに言及げんきゅう;シンプリキオスSimplicius『自然学注解In Aristotelis Physicorum』24.26-25.1──テオフラストスΘεόφραστος経由けいゆの最もっとも詳細しょうさいな証言しょうげん。
  • (伝記でんき):ディオゲネス・ラエルティオスDiogenes Laërtius『ギリシア哲学者列伝Βίοι φιλοσόφων』第だい2巻かん3節せつ(加来かく彰俊あきとし訳やく、岩波いわなみ文庫ぶんこ)。
  • (標準ひょうじゅん研究けんきゅう):G.S. Kirkカーク, J.E. Ravenレイヴン, M. Schofieldスコフィールド『The Presocratic Philosophersソクラテス以前の哲学者たち』2nd ed., Cambridge UP, 1983, Ch.5(邦訳ほうやく:内山うちやま勝利かつとし他た訳やく『ソクラテス以前の哲学者たちThe Presocratic Philosophers』京都大きょうとだい学がく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい)── アナクシメネスἈναξιμένηςの断片だんぺんと証言しょうげんを最もっとも厳密げんみつに検討けんとうする標準ひょうじゅん参考さんこう書しょ。
  • (概説がいせつ):廣川ひろかわ洋一よういち『ソクラテス以前の哲学者The Presocratic Philosophers』(講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、1997年ねん)── 日本語にほんごで読よめる定評ていひょうのある入門にゅうもん概説がいせつ。
  • (科学かがく的てき方法ほうほう論ろんの観点かんてん):D.W. Grahamグラハム『Explaining the Cosmos: The Ionian Tradition of Scientific Philosophy宇宙を説明する:イオニアの科学哲学の伝統』, Princeton UP, 2006 ── ミレトスΜίλητος学派がくはの科学かがく的てき思考しこうを再さい評価ひょうかする近年きんねんの重要じゅうよう著作ちょさく。アナクシメネスἈναξιμένηςのメカニズムmechanism導入どうにゅうの意義いぎを詳述しょうじゅつ。
  • (断片だんぺん新版しんぱん):A. Laksラクス & G.W. Mostモスト 編へん『Early Greek Philosophy初期ギリシャ哲学』(Loeb Classical Library 524-532, Harvard UP, 2016)── DK に代かわる新しん標準ひょうじゅん版ばん。アナクシメネスἈναξιμένηςの全ぜん断片だんぺん・証言しょうげんを原文げんぶん・英訳えいやく対照たいしょうで収録しゅうろく。
  • (古典こてん研究けんきゅう):J. Burnetバーネット『Early Greek Philosophy初期ギリシャ哲学』, 4th ed., A&C Black, 1930(初版しょはん1892)── アナクシメネスἈναξιμένηςを「後退こうたい」と評ひょうした古典こてん的てき解釈かいしゃくの代表だいひょう。現在げんざいは修正しゅうせいされているが、学説がくせつ史し的てきに重要じゅうよう。
  • (通史つうし):W.K.C. Guthrieガスリー『A History of Greek Philosophyギリシャ哲学史』Vol.1, Cambridge UP, 1962 ── ミレトスΜίλητος学派がくは全体ぜんたいを扱あつかう包括ほうかつ的てきな通史つうし。バーネットBurnetの評価ひょうかを踏襲とうしゅうしつつも修正しゅうせいを加くわえている。
  • (近年きんねんの再さい評価ひょうか):P. Curdカード & D.W. Grahamグラハム 編へん『The Oxford Handbook of Presocratic Philosophyオックスフォード・ハンドブック:ソクラテス以前の哲学』, Oxford UP, 2008 ── 初期しょきギリシャ哲学てつがくの最新さいしんの研究けんきゅう動向どうこうを網羅もうらする。アナクシメネスἈναξιμένηςの方法ほうほう論ろん的てき革新かくしんに関かんする複数ふくすうの論考ろんこうを含ふくむ。